コラム
ポストコロナのイノベーション37: B to B物流の人手不足を情報の細分化によって解決する
2-1. 医療、介護、工場、物流、店舗以外に問題が起きている現場とは?
2-2. 専門家、管理者、単純労働者など不足する人材の質に合わせた対応とは?
2-3. IT化やロボット活用以外に考えられる解決方法とは?
このコラムで繰り返し書いていることですが、コロナ禍の外出自粛によってEコマース(以下EC)が成長しています。もちろんコロナ禍以前からECは成長市場であり、物販系は2013年からの7年間で年率10.7%も伸びました。2020年のコロナ禍がそれを加速させ、一年間で何と21.7%も伸びて市場規模は12兆2千億円を超えています。(*1)
(出典:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課(2021)「電子商取引に関する市場調査」)
物販のECが増えれば、それに伴う物流(EC物流)も増えます。ところが、喜んでいる場合でなく、逆に元々あった社会問題を深刻化させています。日本の消費市場は成熟して殆ど伸びていないのに小口荷物が多いECだけ成長すると、荷物の取り扱い「個数」が激増します。この歪みが物流に元々あった人手不足を深刻化させています。ECでは、物流企業の配送センターから家庭に荷物が届けられますが、これは「物流ラストワンマイル」と呼ばれます。
ラストワンマイル問題は元々通信で使われた言葉ですが、近年物流を指すことが多いようです。物流業界では、工場から倉庫への輸送、倉庫での荷捌きはロボットによる自動化が進んでいます。ところが、荷物を顧客に届ける最終地点(ラストワンマイル)は配送員の人力に頼るしかありません。しかも、ECの競争激化によって、翌日配達や当日配送が当たり前になり、必要な配送員が増えました。米国でもラストワンマイルは深刻な問題で、UBERが運営するポストメイツは、ギグワーカーを広く集めて対応しています。日本ではコンビニでの荷物受け取り、宅配ロッカーなどがありますが、決め手になっていません。
「物流の人手不足」には二種類ある
建設、医療、介護と並んで、物流は人手不足の代表業種です。全産業平均と比べて労働時間が長く所得が低いので、人手不足は容易には解消しません。(*2)
(出典:国土交通省 物流政策課(2018年10月11日)「物流を取り巻く現状について」)
ここで重要なことは、人手不足を「物流」と一括りにしないことです。物流は次の二つのセクターに分かれており、抱えている課題が異なります。
① B to B物流
* 企業間輸送: メーカー、卸、小売など企業の倉庫や物流センターを結ぶ
* 特殊輸送: 精密機器、食品、危険物など輸送に特殊技能や設備を要する
* 幹線輸送: 大都市の物流拠点同士を高速道路で結ぶ
* 地域拠点への配送: 物流企業の配送拠点へ物を運ぶ(ラストワンマイルの手前)
② B to C物流(ラストワンマイル)
* 物流企業の拠点からオフィス、店舗、家庭への配送(小口で数が多い)
同じ人手不足でもBとCでは状況が異なります。Bは物流企業のレピュテーションや能力にかかわるので、身元がはっきりして管理できる正社員ドライバーを必要とします。一方、Cは必要とする人数がBより圧倒的に多く、特殊技能もあまり必要とされません。したがって、大手は下請けに委託し、アルバイトやギグワーカーが多く使われています。もっとも、配送の質を重視して、ヤマト運輸などはギグワーカーを好まないようです。
いくら自動化しても人手不足はなくならない
BとCの人手不足に関して国交省から提唱されているのが下記の対策(三本柱)です。(*2)
* 輸送網の集約
* 輸配送の共同化
* モーダルシフト
(出典:国土交通省 物流政策課(2018年10月11日)「物流を取り巻く現状について」)
物流企業とドライバーのマッチングがうまく行かない理由
物流企業とドライバーを結び付けるマッチングビジネスが数多く見られます。ただ、現状大きなビジネスになっていません。その理由として次が考えられます。
① 物流企業とドライバーとのミスマッチが多い
一口にドライバーといっても、社員、個人事業主、ギグワーカーなど色々な形態がある。一方、物流企業のニーズも多様です。双方のニーズに合わせたきめ細かいサイトを作るのは難しい。
② 特殊技能のドライバーを探すことが難しい
B to B物流で冷凍物、冷蔵物、精密機器、危険物などを輸送する場合はドライバーに特別な技能が必要です。ただ、技能は細分化されており、網羅的に検索するのは難しい。
③ ギグワーカーにはトラブルリスクがある
B to C配送で活躍しているギグワーカーは人手不足を解決する選択肢です。ところが、自由人であるギグワーカーを使うと、サービスにうるさい日本の消費者とトラブルになるリスクが高い。特に大手は活用を躊躇します。
物流企業とドライバーの情報を細分化して提供する(株式会社プレックス)
「ドライバージョブ」(*3)というマッチングサイトを運営する株式会社プレックス(*4)は、物流企業と転職検討中のドライバーに「お互いの情報を細分化して検索できる」マッチングを提供しています。B to B物流をターゲットにしていますが、同社の山本隼也取締役によると、今までこういったサイトは見られませんでした。毎月5,000名の新規ドライバー登録があり、累計85,000人に上っています。人が集まらない・ミスマッチ問題は、ドライバーの採用を「車両の種類」「荷物の種類」「配送距離・ルート」の三要素に分解して対応しています。資格含めてドライバー個人の技能情報も網羅されます。
(出典:株式会社プレックスHP)
また、ドライバー人材と荷物案件双方からの検索が可能になれば、従来のマッチングでは埋もれていた情報の掘り起こしにつながります。同社のビジネスは危険物輸送など特殊業務へのニーズとの相性が良いので、結果的に採用単価も高くなります。
同社はドライバーのスキルを見極めることに力を入れており、荷主の発注とドライバーの受注が安定する効果があります。同社によると、採用後のドライバー定着率は94%と高い数字を示しています。物流は、大手企業が頂点に立つ多重下請け構造なので、大型案件で忙しくなると人手不足になり、案件が終わると急に人手が余ります。多くの人が物流の仕事を敬遠する不安定さを解決することにも役立ちます。
(出典:株式会社プレックスHP)
同社が取り組んでいる物流企業とドライバーのマッチングを通して多くのナレッジが獲得できます。物流の課題を効率化と人手不足としか考えていなかった人達に、新しい視点を提供する可能性があります。
「ポストコロナ」の社会課題:
http://www.lab.kobe-u.ac.jp/stin-innovation-leader/column/200430.html
1-1. 人同士の接触が前提だった場所の変革とは?
1-2. 今までと違う「接触方法」とは?
1-3. オフイス、飲食店、スーパー、スポーツ、エンタメ以外に課題を抱える場所とは?
2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
2-1. 医療、介護、工場、物流、店舗以外に問題が起きている現場とは?
2-2. 専門家、管理者、単純労働者など不足する人材の質に合わせた対応とは?
2-3. IT化やロボット活用以外に考えられる解決方法とは?
3. ITの新たな活用方法を提示すること
3-1. テレワークを実施するうえで起きる新たな課題とは?
3-2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の新しい姿とは?
3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?
4. ビジネスの新たなパラダイムを作ること
4-1. 新たな生活、仕事の目的とは?
4-2. 従来と異なるコミュニケーションとは?
4-3. 人々が持つべき新たなマインドセットとは?
4-4. 新しい家庭、病院、オフィス、店舗、物流、工場etc.の形とは?
(*2)国土交通省 物流政策課(2018年10月11日)「物流を取り巻く現状について」:
(*3)ドライバージョブ:
(*4)株式会社プレックスHP: