コラム

ポストコロナのイノベーション28: コロナ禍で高まったデジタル・リスクを低減させる

2021年06月06日
 

ポストコロナの社会課題:3. ITの新たな活用方法を提示すること
ポストコロナの社会課題:3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?
コロナ禍で急成長したデジタル・サービス

コロナ禍によって人同士の接触や人流が制限され、多くのデジタル・サービスが成長しました。ただ、新しいサービスが沢山生まれたわけでなく、元々あったサービスがコロナ禍をきっかけに伸びたケースが多いです。その中には、オンライン教育のようにコロナ禍以前は鳴かず飛ばずの市場や、ネット通販のようにコロナ禍が成長のカンフル剤になった市場もあります。主な「コロナ恩恵」ビジネスを並べると次のようになります。

① ウエブ会議
② 動画やゲームなどのエンターテイメント配信
③ ネット通販
④ ネット通販に関わる物流
⑤ 飲食のデリバリー、ピックアップサービス
⑥ オンライン教育
⑦ 株式投資
⑧ サプライチェーンの高度化

本サイトのポストコロナの社会課題「人同士の接触を減らしながらビジネスを成立させること」が、これら成長のきっかけですが、同時にユーザーの本質的なニーズに対応した事業は持続可能です。例えば、ウエブ会議の便利さを実感した人は、コロナが収束しても100%対面会議に戻ることはないでしょう。何らかの形でウエブ会議を継続させるはずなので、サービスも進化しなければなりません。

必然的に伸びたパブリック・クラウド・サービス

デジタル・サービスの伸びはパブリック・クラウド・サービス(以下、クラウド)の伸びと表裏一体です。この市場は2020年に前年比19.5%伸びて初めて国内市場が1兆円を超えました。(*1) クラウドはデータ使用料に応じて課金されるので、デジタル・サービスが少なくとも20%伸びたと推測されます。

(出典:IDC Japan「国内パブリッククラウドサービス市場予測を発表」(2021年5月8日)) クラウドを利用している企業の数も増えています。総務省の2019年調査によると、クラウドを利用する企業は全体の64.7%に達しています。2015年の44.6%から20ポイントも増加し(*2)、昨年はこの比率がさらに高まったことは確実です。

(出典:総務省「令和2年版情報通信白書」)

クラウドと切り離せないセキュリティへの脅威

一方、同じ調査で、クラウドを利用しない理由として、「情報漏洩などセキュリティに不安がある」が上位にランクされています。別の調査では、「標的型攻撃による機密情報の窃取」「内部不正による情報漏えい」「ビジネスメール詐欺による金銭被害」「サプライチェーンの弱点を利用した攻撃」などがセキュリティ脅威の上位項目として指摘されています。(*3) 

(出典:情報処理推進機構(2020)「情報セキュリティ10大脅威 2020」)

デジタル・サービスが成長すれば、クラウドのサーバーに蓄積される情報量が増え、端末(PC、スマホなど)とサーバー間の通信も必然的に増えます。要するに、コロナ禍はセキュリティへの脅威を増大させています。もちろん、様々な対策が実施されていますが、端末ユーザーがサーバーの情報を通信によって見に行く構造が変わらない限り、悪意の第三者が攻撃するポイントは無くなりません。

エッジ・コンピューティングによって脅威を低減させる

セキュリティ脅威への解決策として注目されているのが「エッジ・コンピューティング」(以下、エッジ)です。情報を大規模なサーバーに蓄積せず、端末と近い場所に情報処理機能を分散させる方式です。(*4) 「エッジ」は「端」の意味で、中央集権のクラウド・サーバーでなく、端っこで情報処理を行うコンセプトです。これだと、第三者が攻撃できるポイントが減り、セキュリティ強度が増します。また、サーバーとの通信が減るので、端末がフリーズするリスクも減ります。

(出典:総務省「平成28年版情報通信白書」)

ただ、クラウド全盛の今、一気にエッジへ移行するのは簡単ではありません。現状のシステムを変えること自体リスクなので、ユーザーは躊躇し、クラウドサービス業者も変化に抵抗します。したがって、エッジを実装して現場がうまく機能することを実証して、市場が感じる不安を和らげることがキーです。

「エッジAIカメラ」によって工場や店舗に価値を提供する(Avintonジャパン)

この課題に「エッジAIカメラ」(*5)というアプローチで取り組んでいるのがAvintonジャパン株式会社(以下、Avinton)(*6)です。同社のエッジAIカメラはエッジコンピューティング、AI、マシンビジョンの最新技術を駆使して、カスタム性が高い特徴があります。工場、店舗、オフィスの監視カメラとペアになった小型PCにAIアルゴリズムが実装され、カメラで収集されたデータを使ってAIがその場で計算を行います。この方式であればクラウドとの通信を減らし、スピーディかつ低コストで情報処理ができます。

エッジのビジネスには、多くのハード・メーカーと、数えきれないソフト企業が参入しています。ところが、パーツのみを提供する企業が多く、Avinton社長の中瀬幸子さんによると、「ソフト、AI、カメラをまとめて実装できる企業は殆どない」そうです。そこが同社の強み、参入障壁です。

(出典:AvintonジャパンHP) 現状、エッジAIカメラは工場における「はさまれ・巻き込まれ」事故防止に活用されています。工場では作業手袋が使われて作業員の体温検知ができないので、危険回避には画像解析技術が有効です。また、小売では、カメラによって顧客の動線解析を行なって、マーケティングに役立てることができます。さらに、警備、インフラ修理など、画像解析は様々な業界に応用できます。

「エッジAIカメラが解決する様々な課題(Avintonジャパン)

Avintonによると、エッジAIカメラによって下記のことが可能になります。

* 物体検出: 「人の手」を検出すれば、工場機械の巻き込み事故を防げる
* 異常検知: ひび割れや凹みを検知すれば、人の目で分からない製造ラインやインフラの異常に気づく
* 姿勢推定: 関節などの繋ぎ合わせによって人の動作を解析し、危険行為や犯罪行為を察知する
* 転倒検知: 姿勢推定によって高齢者の転倒を察知する
* 侵入検知: 監視カメラに物体検知を取り入れて人の監視負担を下げ、リアルタイムで不審者や事故のアラートを出す
* 物体追跡: 来店者を追跡して行動を推測しマーケティングに活用する
* 物体カウント: 交通量や混雑状況を、人手を介さず数値化する
* 視線・表情推定: 人の顔を検知し、視線の先にある興味の対象、表情の裏にある感情を推測する

(出典:AvintonジャパンHP)

これから5Gが普及すると、クラウドとエッジの通信問題はかなり解消されるでしょう。その点、設備が整ったオフィスではクラウドの優位性が残ります。ところが、建設、介護など通信環境の整備が難しい場所では、クラウドからエッジへの移行が進むと思われます。ただ、5Gの時代になっても、通信に伴うセキュリティ脅威は解決できません。エヌビディアやデルなどグローバルIT大手企業が高性能の小型PC開発に力を入れているのは、この流れを反映しています。

「ポストコロナ」の社会課題:
http://www.lab.kobe-u.ac.jp/stin-innovation-leader/column/200430.html

1. 人同士の接触を減らしながらビジネスを成立させること
1-1. 人同士の接触が前提だった場所の変革とは?
1-2. 今までと違う「接触方法」とは?
1-3. オフイス、飲食店、スーパー、スポーツ、エンタメ以外に課題を抱える場所とは?

2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
2-1. 医療、介護、工場、物流、店舗以外に問題が起きている現場とは?
2-2. 専門家、管理者、単純労働者など不足する人材の質に合わせた対応とは?
2-3. IT化やロボット活用以外に考えられる解決方法とは?

3. ITの新たな活用方法を提示すること
3-1. テレワークを実施するうえで起きる新たな課題とは?
3-2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の新しい姿とは?
3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?

4. ビジネスの新たなパラダイムを作ること
4-1. 新たな生活、仕事の目的とは?
4-2. 従来と異なるコミュニケーションとは?
4-3. 人々が持つべき新たなマインドセットとは?
4-4. 新しい家庭、病院、オフィス、店舗、物流、工場etc.の形とは?
(*1)IDC Japan「国内パブリッククラウドサービス市場予測を発表」(2021年5月8日):

(*2)総務省「令和2年版情報通信白書」:

(*3)情報処理推進機構(2020)「情報セキュリティ10大脅威 2020」:

(*4)総務省「平成28年版情報通信白書」:

(*5)エッジAIカメラ・ホームページ:

(*6)Avintonジャパン株式会社ホームページ: