コラム
ポストコロナのイノベーション⑰:モビリティの岩盤規制を合法的に回避する
2020年09月20日
3-2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の新しい姿とは?
3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?(3. ITの新たな活用方法を提示すること)
社会課題2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
コロナへの対応を阻む「岩盤規制」
3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?(3. ITの新たな活用方法を提示すること)
社会課題2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
コロナ禍によって、「岩盤規制」の弊害が改めてクローズアップされています。岩盤規制とは、既得権益者の政治力が強く、問題点が指摘されてもなかなか変わらない規制分野のことで、医療・農業・教育・雇用などが中心。コロナ禍では、医療・教育の規制にスポットライトが当たりました。
主な岩盤規制
① 医薬品開発
② オンライン診療
③ 保健所
④ 初等・中等教育
① 医薬品開発
② オンライン診療
③ 保健所
④ 初等・中等教育
例えば、オンライン診療は岩盤規制に阻止され、今でも大して普及していません。一方、コロナ禍では院内感染を恐れて病院に行く人が減り、病院経営に支障が出るという今まで見たこともない状況が起きています。院内スペースがコロナ治療に取られて、がん手術や健康診断を延期する病院も珍しくありません。したがって、オンライン診療は病院・患者双方に今までと異なるメリットを提供できます。
日本医師会のまとめ(*1)によると、オンライン診療は対面診療の補完であれば認められていますが、普及は今ひとつです。初診は原則対面診療で、オンライン診療が可能なのは二回目以降で、コロナ患者でも同様です。患者から見れば、もう少し踏み込んだ対応が必要です。また、オンライン診療自体が認められても、病院側に導入するインセンティブがあるとは限りません。オンラインに診療報酬が認められたのはつい二年前で、病院はIT投資をしなければなりません。
他に、PCR検査で混乱している保健所、柔軟な授業ができない初等・中等教育でも、現場改良に岩盤規制が壁のように立ちはだかっています。「何故、原理原則に照らしてやるべきことができないのか」という当たり前の問に答えられない。岩盤規制が温存されるのは、政治、行政、既得権益を持つ業界の複合作用ですが、その弊害を嘆くだけでなく、合法的に規制を回避するイノベーションが求められています。
白タク規制」によって全く普及していない日本のライドシェア
ヒントはタクシー業界にありました。コロナ禍で人の「移動ニーズ」が変わり、イノベーションが求められていますが、ここにも岩盤規制があります。日本のタクシー営業は許可制で、新規参入業者の制限、白タク禁止、料金自由化制限など、市場が不透明で不公平なことは公然の秘密です。規制だけでなく既存業界が強すぎることが背景にあります。
ライドシェアの米Uber(ウーバー)は世界900以上の都市でサービスを行っており、日本でも20都市で営業されています。(*2)ただ、岩盤規制の白タク禁止が大きな壁となって事業は極めて小規模です。日本はライドシェアが殆ど普及していない先進国では珍しい例になっています。ウーバーは、中国や東南アジアから撤退していますが、現地に滴滴出行やグラブのような強力な同業者がいるためで、日本とは事情が違います。
これまでタクシー岩盤規制への挑戦がなかったわけではありません。2015年2月、福岡市で一般人が自家用車で運送サービスを行う実証試験「みんなのウーバー」が実施されました。ただ、国土交通省から「白タク行為に当たる」と指摘され、同年3月にサービスは中止されています。(*3)
規制緩和なしにタクシー相乗りを実現する(nearMe.)
出典:nearMe. HP
ウーバーなどのライドシェアが世界の消費者に提供した価値は、タクシーよりもサービスの質を上げ、しかも料金を安くしたことです。日本のタクシーはNY、パリ、ロンドン、ローマなどと比べてサービスが良いので、「ライドシェアなど必要ない」というのが既得権益者の意見です。(比較して日本のサービスが良いのは事実です)ライドシェアが事実上封印されている日本で、打開策はないのだろうか。この状況下、岩盤規制に抵触せず、消費者に新たな価値を提供しているのがnearMe. (*5)というサービスです。
短距離をタクシーで移動する場合は問題ないが、長距離移動では財布の中身が気になります。東京23区の端と都心の間をタクシーに乗れば片道で1万円近くかかり、タクシーチケットを持っていなければ滅多に利用できません。こういう時は4人くらいで割り勘したいが、利用時間とルートがマッチする知人は簡単に見つかりません。
しかし、タクシー事業者がお互い知らない乗客を乗合しようとしても、日本の法規制ではそのようなサービスは認められていません。そこで、nearMe.は同じ方向、同じ時間帯にタクシーを使いたい利用者同士をアプリとAIで効率的に事前に1つのグループをマッチングする仕組みを作りました。相乗りの最後に降りる人が運転手に代金を支払い、先に降りた人の負担額は自動的にキャッシュレス決済されます。この方法であれば乗客が特定されているので「知人どうしの相乗り」と同じで、規制に抵触しません。通勤、飲み会帰り、空港・ゴルフ場と自宅の間など、出発点と到着点が決まっているルートでマッチングが起きやすいという特徴があります。まさに岩盤規制を合法的に回避するイノベーションです。
「タクシーシェアリング」という日本独特のニーズ
システムを開発・運営する株式会社NearMeの高原幸一郎社長は、「全国に約23万台あるといわれるタクシーは平均1~2名ほどの乗客しか乗せていません。法的には最大9名まで乗せられるので、非常にもったいない。」と語っています。ライドシェアリングは普通、自家用車のシェアリングを指しますが、nearMe.は日本ならではの「タクシーシェアリング」を行っています。ウーバーのようにタクシー業界と競合せず、むしろウィンウィンになるところが事業のポテンシャルを感じさせます。
車内では、運転手、乗客間での感染を避けるため、運転手の体温チェック、座席にゆとりを持たせる、定期的な換気や消毒など、コロナへの対応は丁寧に行われています。
高原さんが当初ターゲットに見据えていた空港と都心・住宅地間の移動サービスは、コロナ禍で打撃を受けました。ところが、コロナ禍で、電車に乗りたくない、タクシー相乗りで通勤したいという人が増えたのが面白いところです。彼によると、空港移動サービスの次に見据えていた通勤相乗りサービスへの需要喚起が早まりました。単独でタクシー通勤できる人は少なくても、相乗りシャトルであれば払える人はぐっと増えます。
過疎地のモビリティ革新を阻む岩盤規制
高原さんが将来的に解決を見据えている社会課題があります。それは、タクシーに関する日本特有の課題です。流しのタクシーがすぐ捕まるのは大都市の中心部だけで、少しでも郊外に行くとなかなか見つかりません。例えば人口150万人の福岡市でさえ、JapanTaxiなどのアプリや電話で呼んでもタクシーが来てくれない地域があります。
また、バスもタクシーもなくなった過疎地では都会と違って状況が深刻です。自家用車以外に移動手段がないのに、高齢になって免許返納する人が増えているからです。そこで、「自家用有償旅客運送制度」という自家用車を使ったタクシー業務が、過疎地の特例として認められています。白タク規制の例外です。ただ、この制度は使い勝手が悪く、あまり普及していません。市町村やNPOが制度利用の登録をして、配車などの運行管理責任者を選任する必要があり、結構面倒です。
制度活用の一例を挙げると、2016年5月、京都府京丹後市のNPO法人がウーバーのシステムを使って、自家用車タクシー事業を開始しました。興味深いのは、この動きを見て、京丹後から撤退したはずの京都市内のタクシー会社がわざわざ越境して営業所を開設したことです。(*4) 過疎地のために利益度外視でタクシー業務を復活させたのではなく、「ウーバーはずし」「白タク絶対反対」の意図が前面に出ているようです。
東京にも存在する「交通砂漠」
実は過疎地だけでなく東京にも「都会の交通砂漠」が存在します。東京の湾岸地域ではタワーマンションの開発が依然著しいです。東京オリンピックの選手村として使われた後分譲予定の「晴海フラッグ」は何と全24棟・5632戸・12000人という凄まじい規模です。元々何もなかった埋立地の人口が急増すると都市インフラ問題が起きます。電車やバスがない、タクシーは高いという交通砂漠も必然です。これはnearMe.にとって期近な事業ターゲットです。
過疎地のモビリティを確保するには、「ウーバーが関わっているか」「白タクに該当するか」などは、利用者を置き去りにした不毛な議論です。岩盤規制の緩和も必要ですが、NearMeのように規制が想定していなかった分野を正面から議論して切り開くイノベーションの方が短期間で消費者に価値を提供できる可能性があります。この際、既得権益者とウインウインを築く知恵も求められます。
「ポストコロナ」の社会課題:
http://www.lab.kobe-u.ac.jp/stin-innovation-leader/column/200430.html
a href=”https://www.lawson.co.jp/lab/tsuushin/art/1381668_4659.html”>(*1)ローソン(2019年8月24日)「【News】スマート店舗(深夜省人化)実験を横浜で開始!」:
(*2)JR東日本(2018年10月2日)「AI を活用した無人決済店舗の実証実験第二弾を赤羽駅で実施」:
(*3)食品産業新聞社(2020年3月22日)「高輪ゲートウェイ駅にAI無人決済コンビニ、商品はスキャン不要で自分のバッグへ/JR東日本「TOUCH TO GO」(タッチトゥゴー)」:
(*1)日医総研リサーチエッセイ No.80(2020年5月13日)「オンライン診療についての現状整理」:
(*2)ウーバーHP:
(*3)日本経済新聞(2015年3月6日)「ライドシェア検証実験中止 米ウーバー、国交省指導受け」:
(*4)Wedge REPORT(2016年6月28日)「丹後の山奥で火蓋切ったタクシー業界・Uber戦争」:
(*5)nearMe.:
ウーバーなどのライドシェアが世界の消費者に提供した価値は、タクシーよりもサービスの質を上げ、しかも料金を安くしたことです。日本のタクシーはNY、パリ、ロンドン、ローマなどと比べてサービスが良いので、「ライドシェアなど必要ない」というのが既得権益者の意見です。(比較して日本のサービスが良いのは事実です)ライドシェアが事実上封印されている日本で、打開策はないのだろうか。この状況下、岩盤規制に抵触せず、消費者に新たな価値を提供しているのがnearMe. (*5)というサービスです。
短距離をタクシーで移動する場合は問題ないが、長距離移動では財布の中身が気になります。東京23区の端と都心の間をタクシーに乗れば片道で1万円近くかかり、タクシーチケットを持っていなければ滅多に利用できません。こういう時は4人くらいで割り勘したいが、利用時間とルートがマッチする知人は簡単に見つかりません。
しかし、タクシー事業者がお互い知らない乗客を乗合しようとしても、日本の法規制ではそのようなサービスは認められていません。そこで、nearMe.は同じ方向、同じ時間帯にタクシーを使いたい利用者同士をアプリとAIで効率的に事前に1つのグループをマッチングする仕組みを作りました。相乗りの最後に降りる人が運転手に代金を支払い、先に降りた人の負担額は自動的にキャッシュレス決済されます。この方法であれば乗客が特定されているので「知人どうしの相乗り」と同じで、規制に抵触しません。通勤、飲み会帰り、空港・ゴルフ場と自宅の間など、出発点と到着点が決まっているルートでマッチングが起きやすいという特徴があります。まさに岩盤規制を合法的に回避するイノベーションです。
「タクシーシェアリング」という日本独特のニーズ
システムを開発・運営する株式会社NearMeの高原幸一郎社長は、「全国に約23万台あるといわれるタクシーは平均1~2名ほどの乗客しか乗せていません。法的には最大9名まで乗せられるので、非常にもったいない。」と語っています。ライドシェアリングは普通、自家用車のシェアリングを指しますが、nearMe.は日本ならではの「タクシーシェアリング」を行っています。ウーバーのようにタクシー業界と競合せず、むしろウィンウィンになるところが事業のポテンシャルを感じさせます。
車内では、運転手、乗客間での感染を避けるため、運転手の体温チェック、座席にゆとりを持たせる、定期的な換気や消毒など、コロナへの対応は丁寧に行われています。
高原さんが当初ターゲットに見据えていた空港と都心・住宅地間の移動サービスは、コロナ禍で打撃を受けました。ところが、コロナ禍で、電車に乗りたくない、タクシー相乗りで通勤したいという人が増えたのが面白いところです。彼によると、空港移動サービスの次に見据えていた通勤相乗りサービスへの需要喚起が早まりました。単独でタクシー通勤できる人は少なくても、相乗りシャトルであれば払える人はぐっと増えます。
過疎地のモビリティ革新を阻む岩盤規制
高原さんが将来的に解決を見据えている社会課題があります。それは、タクシーに関する日本特有の課題です。流しのタクシーがすぐ捕まるのは大都市の中心部だけで、少しでも郊外に行くとなかなか見つかりません。例えば人口150万人の福岡市でさえ、JapanTaxiなどのアプリや電話で呼んでもタクシーが来てくれない地域があります。
また、バスもタクシーもなくなった過疎地では都会と違って状況が深刻です。自家用車以外に移動手段がないのに、高齢になって免許返納する人が増えているからです。そこで、「自家用有償旅客運送制度」という自家用車を使ったタクシー業務が、過疎地の特例として認められています。白タク規制の例外です。ただ、この制度は使い勝手が悪く、あまり普及していません。市町村やNPOが制度利用の登録をして、配車などの運行管理責任者を選任する必要があり、結構面倒です。
制度活用の一例を挙げると、2016年5月、京都府京丹後市のNPO法人がウーバーのシステムを使って、自家用車タクシー事業を開始しました。興味深いのは、この動きを見て、京丹後から撤退したはずの京都市内のタクシー会社がわざわざ越境して営業所を開設したことです。(*4) 過疎地のために利益度外視でタクシー業務を復活させたのではなく、「ウーバーはずし」「白タク絶対反対」の意図が前面に出ているようです。
東京にも存在する「交通砂漠」
実は過疎地だけでなく東京にも「都会の交通砂漠」が存在します。東京の湾岸地域ではタワーマンションの開発が依然著しいです。東京オリンピックの選手村として使われた後分譲予定の「晴海フラッグ」は何と全24棟・5632戸・12000人という凄まじい規模です。元々何もなかった埋立地の人口が急増すると都市インフラ問題が起きます。電車やバスがない、タクシーは高いという交通砂漠も必然です。これはnearMe.にとって期近な事業ターゲットです。
過疎地のモビリティを確保するには、「ウーバーが関わっているか」「白タクに該当するか」などは、利用者を置き去りにした不毛な議論です。岩盤規制の緩和も必要ですが、NearMeのように規制が想定していなかった分野を正面から議論して切り開くイノベーションの方が短期間で消費者に価値を提供できる可能性があります。この際、既得権益者とウインウインを築く知恵も求められます。
「ポストコロナ」の社会課題:
http://www.lab.kobe-u.ac.jp/stin-innovation-leader/column/200430.html
1. 人同士の接触を減らしながらビジネスを成立させること
1-1. 人同士の接触が前提だった場所の変革とは?
1-2. 今までと違う「接触方法」とは?
1-3. オフイス、飲食店、スーパー、スポーツ、エンタメ以外に課題を抱える場所とは?
2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
2-1. 医療、介護、工場、物流、店舗以外に問題が起きている現場とは?
2-2. 専門家、管理者、単純労働者など不足する人材の質に合わせた対応とは?
2-3. IT化やロボット活用以外に考えられる解決方法とは?
3. ITの新たな活用方法を提示すること
3-1. テレワークを実施するうえで起きる新たな課題とは?
3-2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の新しい姿とは?
3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?
4. ビジネスの新たなパラダイムを作ること
4-1. 新たな生活、仕事の目的とは?
4-2. 従来と異なるコミュニケーションとは?
4-3. 人々が持つべき新たなマインドセットとは?
4-4. 新しい家庭、病院、オフィス、店舗、物流、工場etc.の形とは?
1-1. 人同士の接触が前提だった場所の変革とは?
1-2. 今までと違う「接触方法」とは?
1-3. オフイス、飲食店、スーパー、スポーツ、エンタメ以外に課題を抱える場所とは?
2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
2-1. 医療、介護、工場、物流、店舗以外に問題が起きている現場とは?
2-2. 専門家、管理者、単純労働者など不足する人材の質に合わせた対応とは?
2-3. IT化やロボット活用以外に考えられる解決方法とは?
3. ITの新たな活用方法を提示すること
3-1. テレワークを実施するうえで起きる新たな課題とは?
3-2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の新しい姿とは?
3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?
4. ビジネスの新たなパラダイムを作ること
4-1. 新たな生活、仕事の目的とは?
4-2. 従来と異なるコミュニケーションとは?
4-3. 人々が持つべき新たなマインドセットとは?
4-4. 新しい家庭、病院、オフィス、店舗、物流、工場etc.の形とは?
a href=”https://www.lawson.co.jp/lab/tsuushin/art/1381668_4659.html”>(*1)ローソン(2019年8月24日)「【News】スマート店舗(深夜省人化)実験を横浜で開始!」:
(*2)JR東日本(2018年10月2日)「AI を活用した無人決済店舗の実証実験第二弾を赤羽駅で実施」:
(*3)食品産業新聞社(2020年3月22日)「高輪ゲートウェイ駅にAI無人決済コンビニ、商品はスキャン不要で自分のバッグへ/JR東日本「TOUCH TO GO」(タッチトゥゴー)」:
(*1)日医総研リサーチエッセイ No.80(2020年5月13日)「オンライン診療についての現状整理」:
(*2)ウーバーHP:
(*3)日本経済新聞(2015年3月6日)「ライドシェア検証実験中止 米ウーバー、国交省指導受け」:
(*4)Wedge REPORT(2016年6月28日)「丹後の山奥で火蓋切ったタクシー業界・Uber戦争」:
(*5)nearMe.: