コラム

ポストコロナのイノベーション27: ブランド名の付け替えによって新品アパレルの廃棄を減らす

2021年05月30日
 

ポストコロナの社会課題4. ビジネスの新たなパラダイムを作ること
ポストコロナの社会課題4-3. 人々が持つべき新たなマインドセットとは?
ユニクロ、MUJI、SANYO以外は「総負け」のアパレル業界

コロナ禍は小売業界に複雑な影響を与えました。「複雑」と書いた理由は同じ小売りでも商品によって影響が異なるからです。巣篭もり現象の影響で、食料品と住関連商品の販売は概ね好調です。一方、消費者の外出とウインドーショッピングが減ったため、衣料品(アパレル)の販売は低調です。日本チェーンストア協会の最新データ(2021年2月分)を見ると、衣料品販売は前年同月比で11.5%減少しています。昨年通すと16.9%も減りました。(*1)

また、アパレル大手25社の2019年〜2020年決算を見ると、前年より売上が伸びたのはファーストリテイリング(ユニクロ)、良品計画、三陽商会の三社だけです。(*2) 関西の名門企業レナウン(23位)が2020年11月に破産したのは衝撃的でした。この業界はユニクロやしまむらを除けば大手といっても小ぶりの企業が多く、50位の銀座山形屋の売上は50億円程度しかありません。業界統計ではランキングされない中小・零細企業の状況はかなり深刻と思われます。

半分以上は売れ残る新品アパレル

2019年国内合計で28億4600万点のアパレル商品が供給されましたが、そのうちセールも含めて実際に販売されたのは13億7300万点(全体の48.2%)に過ぎません。(*3) 実際に売れた商品が半分未満ということは、大量の在庫が捨てられたはずです。ただ、この業界は昔から大量の「ゴミ」を排出していたわけではなく、1990年に遡ると新品の売れ残りは3.5%しかありませんでした。(*3) その後バブルが崩壊し、低価格を求めて中国などの海外生産が増え、国産比率は2019年に2%まで下がりました。生産の海外移転と回転が早いファストフッション成長によって、過剰在庫・廃棄体質に変わったことが分かります。

(出典:小島ファッションマーケティングHP)

コロナ禍によるアパレル不振によって、過剰在庫・廃棄体質は益々強まっていると思われます。ただ、環境負荷は膨大で、もはや持続可能ではありません。因みに、日本の中古衣料品のうち、リユースやリサイクルされずに捨てられる比率は77%もあります。(*4) 中古品のリサイクルを増やす試みはいくつか見られますが、新品の廃棄を減少させる施策は殆どありませんでした。

新品ブランドの廃棄が多い理由

売れ残った新品の廃棄を減らすことが難しい理由としてアパレル業界の事情があります。

① むやみにダンピングするとブランド価値が毀損される
② 在庫放出により商品価格が低下し、さらに売上減少という悪循環に陥る
③ 自社の在庫(売残り)情報は秘匿にしたいので、業界他社との協力がやりにくい

ブランドを付け替えて新品廃棄を減らすという発想(株式会社FINE)

新品アパレルの売れ残り課題に全く新しい発想で取り組んでいるのが、株式会社FINE (*5)です。同社はアパレルメーカーから新品の在庫を買取り、「Rename」という独自の名前に付け替えて再販するというビジネスを展開しています。従来はセール、アウトレット、ファミリーセールで在庫をさばくしかなかったメーカーに対する新しい再販ルートの提供です。

(出典:株式会社FINEホームページ)

RenameはFINEが商標登録している名前で、「付け替える」とは下記の工程を指します。

① 襟タグのブランドネームを付け替える
② 「アイロン禁止」などが書かれた品質表示タグを付け替え、販売元を変更する
③ 商品名や価格が書かれた下げタグをRenameに付け替える
④ 取り外したタグは元のメーカーに返却する

(出典:株式会社FINEホームページ)

アパレルのタグを外して販売する「バッタ商売」は昔からありましたが、「タグを切り取るなどワケアリ品として販売される商品は、長く大切にされないことが多く残念」とFINE社長の加藤ゆかりさんは語ります。タグにはブランド名だけでなく素材や洗濯方法も書かれており、この情報がないと洋服を大事に扱う気がなくなるでしょう。

既存売り場とのカニバリ防止と大量在庫への対応

こうして名前が変わった商品をFINEが再販します。ブランド名が変わることによって、既存のブランドターゲットと異なる新しい顧客へ商品を届けることができます。また、売れ残った商品の再販には保管や流通の手間がかかり、メーカーにとって負担が大きい。しがたって、コストがかかって勿体ないが在庫を捨てる方が楽です。

(出典:株式会社FINEホームページ)

FINEはこの課題を解決して、通常では再販不可能な大量在庫の処分にも対応しています。目立つところでは大手通販会社から約50万点の在庫を受け入れた実績があります。Renameはブランド商品の再生であることが消費者に周知されれば、品質やデザインが優れた商品を割安に購入する機会が増えます。

加藤さんは大手住宅メーカーを辞めて独立し、当初はCD、DVDの再販ビジネスを手掛けました。スマホが普及してこの市場が縮小した後、代わりに家電、家具など様々な商品を検討しました。そして、在庫処理が難しく、家電よりも流通市場の情報格差が大きいアパレルに行き着きました。

チャネル・ブランド間の無駄を減らす仕組み

仮に今後Renameの規模が大きくなると、新品メーカーとのカニバリのリスクが高くなります。ただ、加藤さんはRenameを商品として巨大にすることは考えていないそうです。むしろ、Renameという「仕組み」を知ってもらうことに力を注ぎたい。新品アパレルの半分が売れ残るのは、新品、アウトレット、セールなどのチャネルが高い壁で仕切られているからです。他社(ブランド)との壁も高く、相乗り販売は基本的にできません。Renameがチャネル間とブランド間の壁を低くすれば、無駄な在庫を減らすことができます。

また、在庫が余っているチャネルと在庫が少ないチャネルとの間で情報交換して販売協力できれば、「在庫シェアリング」という発想に広がります。アパレルで生まれた仕組みが無駄を抱えている他市場にも適用されれば、新しいビジネスが生まれます。

「ポストコロナ」の社会課題:
http://www.lab.kobe-u.ac.jp/stin-innovation-leader/column/200430.html

1. 人同士の接触を減らしながらビジネスを成立させること
1-1. 人同士の接触が前提だった場所の変革とは?
1-2. 今までと違う「接触方法」とは?
1-3. オフイス、飲食店、スーパー、スポーツ、エンタメ以外に課題を抱える場所とは?

2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
2-1. 医療、介護、工場、物流、店舗以外に問題が起きている現場とは?
2-2. 専門家、管理者、単純労働者など不足する人材の質に合わせた対応とは?
2-3. IT化やロボット活用以外に考えられる解決方法とは?

3. ITの新たな活用方法を提示すること
3-1. テレワークを実施するうえで起きる新たな課題とは?
3-2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の新しい姿とは?
3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?

4. ビジネスの新たなパラダイムを作ること
4-1. 新たな生活、仕事の目的とは?
4-2. 従来と異なるコミュニケーションとは?
4-3. 人々が持つべき新たなマインドセットとは?
4-4. 新しい家庭、病院、オフィス、店舗、物流、工場etc.の形とは?


(*1)日本チェーンストア協会 広報リリース・販売統計:

(*2)業界動向:

(*3)小島ファッションマーケティングHP:

(*4)木村照夫「衣類の消費と廃棄・循環の実態と課題」廃棄物資源循環学会誌,Vol.21, No.3, pp.140-147, 2010:

(*5)株式会社FINEホームページ: