コラム

「ポストコロナ」のイノベーション③: 「持ち帰り」は危機にある外食の救世主となるか

2020年05月11日
 
社会課題3-3 ITが解決するべき新たな課題とは?(ITの新たな活用方法の提示)
社会課題4-4 新しい店舗の形とは?(ビジネスの新たなパラダイムを作ること)


外食の現状は危機的

新型コロナウイルス関連の自粛によって、大きな打撃を受けている産業の代表が外食です。銀座、六本木、梅田などがゴーストタウンになっているのを見ると、そのインパクトは容易に想像できますが、具体的な数字を見ると衝撃的です。

外食は典型的な成熟産業で、月別の売上高を前年と比較するとプラス・マイナス3%程度の変動しかしません。この傾向が10年以上続いています。ところが、その安定(成熟)した業界全体の売上高が2020年3月に17.3%(前年同月比、以下同様)も減少しました。なかでも、パブレストラン/居酒屋とディナーレストランは、各々43.3%、40.5%も減っています。(*1)

緊急事態宣言発令前の3月でさえこの数字なので、4月はさらに深刻な状況です。自主的な休業だけでなく、自治体の要請による営業時間短縮も重なりました。業界調査の速報値によると、居酒屋やディナーレストランはそもそも売上がない店舗が続出しているようです。まさに衝撃的です。

困っているのは外食業者だけではありません。外食に依存してきた消費者にとっても今は大変な状況です。単身者、共働き・子育て世帯、オフィス街通勤者などにとって、外食は生活の一部であり、外食を使えないことは、精神・身体の変調につながります。

成長しているがニッチにとどまる「持ち帰り」

この課題の解決策として、テイクアウト、宅配、ドライブスルーなどの「持ち帰り」ビジネスが脚光を浴びています。人同士の接触を減らすことができるので、外食総崩れの現状でも持ち帰りだけは伸びています。また、店舗での食事を持ち帰りに転換すれば、家賃、光熱費、人件費などの固定費が下がり、利益率が高まります。しかし、依然ニッチ分野で、業界動向の調査でも「但し書き」の域を脱していません。

持ち帰りがニッチを脱出できない要因として下記が挙げられます。(①から③が企業側の要因で、④、⑤が消費者側の要因です。)
① 外食業界では、あくまで「オマケ」とみなされていること
② コロナ自粛期間の暫定事業とみなされていること
③ 事業を大きくしようと思えば、システム投資が伴うこと
④ 現状はスーパーやコンビニの惣菜・弁当などに限定されて、チョイスが少ないこと
⑤ 「美味しくない」「健康に良くない」という固定観念があること

環境が激変した外食と持ち帰り

ただ、コロナ自粛によって、外食を取り巻く環境は大きく変わりました。営業自粛が解けても、感染再拡大になれば自粛に戻るリスクが当面ついて回るからです。元に戻る可能性は低いと言わざるを得ません。

まず、外食業界の二極化が進んでいます。この業界は中小・零細企業が多く、売上高1,000億円を超える企業がわずか12社しかありません。(2018年時点*2)ある程度の規模や体力があるチェーンレストランであれば、リストラなど事業構造の修正によって生き延びることができるでしょう。しかし、中小・零細企業は存続のリスクが高まっており、来店だけでなく持ち帰りを加えた事業ポートフォリオ変革が欠かせません。

また、消費者は持ち帰りの新たな魅力を発見しました。味気ないコンビニ弁当や定番のピザ、中華だけでなく、近所の名店メニューを安く楽しむことができるようになった。「美味しくてチョイスが増えるのなら、もっと持ち帰りを使おうかな」というニーズが生まれました。
出典: PICKSホームページ

消費者と中小・零細外食に価値を提供する

持ち帰り市場成長のためには、③のシステム投資と④の消費者のチョイス拡充が不可欠です。今のように消費者が電話やFAXで注文して、店は需要予測も立てられず大わらわでは、いつまでもニッチのままです。ただ、システム化といっても、主役となるべき中小・零細企業には余力がないというジレンマがあります。

この課題解決を目指しているのが、PICKS(*3)というサイトです。PICKSを使えば、注文する消費者が地域を指定して、幅広いチョイスから店と料理を選ぶことができます。試しに「渋谷駅」で検索すると、250近い店舗が表示され、すし、天ぷら、焼き鳥、焼肉、中華、イタリアン、フレンチ、メキシカン、創作料理、エスニック、カレー、ハンバーガー、スイーツなど、あらゆるジャンルの料理が出てきます。比較的小規模な店を中心に、提携先は二年弱で1,000店舗以上までになりました。これなら、チェーン店の出前と違い、同じメニューばかりで飽きることはありません。しかも、一週間先まで注文可能です。

注文とカード決済はすべてスマホで完結し、料理のピックアップ時間を指定するので、消費者は店で待つ必要がありません。店舗内の食事や配送費がかかるデリバリーより安く上がります。また、料金がカード決済されるので、店はドタキャンリスクを避けられます。さらに、加盟店は高額のシステム投資が不要なので、中小・零細企業でも導入できます。

PICKSを立ち上げた株式会社DIRIGIOの本多祐樹社長によると、コロナ自粛が始まってから、飲食店からの問い合わせが急増しているようです。彼は「消費者のライフスタイルが変わることが市場成長のキーです」とも述べています。外食はローカルビジネスなので、中小店舗だけでなく、大手チェーンがPICKSを使う可能性もあります。

また、本多氏は持ち帰り市場の情報基盤を作りたいと考えています。食べログなど、店舗情報や評価が豊富な外食と比べて、持ち帰りは情報から取り残された伸びシロが大きい市場と言えます。また、情報基盤の整備がUBER EATSなどとの競争を左右するでしょう。
「ポストコロナ」の社会課題: http://www.lab.kobe-u.ac.jp/stin-innovation-leader/column/200430.html
1. 人同士の接触を減らしながらビジネスを成立させること
1-1. 人同士の接触が前提だった場所の変革とは?
1-2. 今までと違う「接触方法」とは?
1-3. オフイス、飲食店、スーパー、スポーツ、エンタメ以外に課題を抱える場所とは?

2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
2-1. 医療、介護、工場、物流、店舗以外に問題が起きている現場とは?
2-2. 専門家、管理者、単純労働者など不足する人材の質に合わせた対応とは?
2-3. IT化やロボット活用以外に考えられる解決方法とは?

3. ITの新たな活用方法を提示すること
3-1. テレワークを実施するうえで起きる新たな課題とは?
3-2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の新しい姿とは?
3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?

4. ビジネスの新たなパラダイムを作ること
4-1. 新たな生活、仕事の目的とは?
4-2. 従来と異なるコミュニケーションとは?
4-3. 人々が持つべき新たなマインドセットとは?
4-4. 新しい家庭、病院、オフィス、店舗、物流、工場etc.の形とは?


関連記事 (*1)一般社団法人日本フードサービス協会(2020年4月)「外食産業市場動向調査」: http://www.jfnet.or.jp/files/getujidata-2020-03.pdf

(*2)2018年外食上場企業ランキング: https://www.fb-soken.com/ranking.html

(*3)PICKSのHP: https://picks.fun/