『俺のイタリアン』を生んだ男-「異能の起業家」坂本孝の経営哲学(2):そのビジネスモデルの正体

投稿日2014/04/07

俺のイタリアン』を生んだ男-「異能の起業家」坂本孝の経営哲学(2):そのビジネスモデルの正体


 前回、『俺のイタリアン』1号店が波乱の幕開けからどのような経緯を辿って軌道に乗ったかについてお話ししました。イタリアンの後、『俺のフレンチ』『俺の割烹』などと続く『俺のシリーズ』のビジネスモデルは総て共通しています。違いは、イタリアン、フレンチ、割烹といった扱う商品だけです。つまり、このビジネスは、商品を変えればいくらでも拡張性があるということです。今回は俺のシリーズの興味深いビジネスモデルについてお話します。

顧客回転数によって高級料理と低価格を両立させる

 俺のシリーズは「前代未聞」のビジネスである。「高級料理」「低価格」の両方を同時に成し遂げた店は他に存在しないからである。外食はビジネスなので、利益を出さなければならないのは当然である。そのためには、食材の質、シェフの腕前、手間、価格のどれかを犠牲にしないと成り立たない。デフレ経済の影響を受けて、長い間、お客は外食産業の低価格路線に慣れてきた。その一方で、パリやミラノで本場の三ツ星レストランを堪能したことがある日本人が増えているのも事実である。

 20年前であれば、グローバルレストラン市場での東京という街の評価は大したことはなかった。しかし、今では東京にミシュランの星を持つレストランが243店(2014年版による)もあり、三ツ星レストランの数ではパリを抜く「世界最高の美食の街」になっている。つまり、「安いが味はそこそこ」のレストランに飽き飽きしている人が多いのも事実である。この層が俺のシリーズのターゲットになった。

俺のシリーズの「ビジネスモデル」は次の3つの組み合わせで可能となった。


高級な食材に金を惜しまないこと(高い顧客満足)

ミシュランの星クラスの一流シェフを集めること(参入障壁)

立ち飲みにして高い顧客回転数を保つこと(スペース有効活用による経費率削減)

 『俺のシリーズ』のビジネスモデルは、高級食材をふんだんに使い、敢えてコストを高くした分を、お客の回転数(テーブルあたりの1日の顧客数)を高めて補うことである。

 飲食業界の経営指南書には、普通「食材費の売上に占める原価率は30%以内に抑えるべし」と書かれている。「50%以上になるとド素人、60%を超える店は潰れる」とも指摘されている。ところが、俺のシリーズの原価率は最低でも60%と高く、場合によっては100%を超えるメニューもある。原価率100%ということは、自分で食材を買いに行くより安いということだ。しかも、プロのシェフが料理をしてくれる。

 坂本等は、ミシュランの星を取っているシェフを前面に立てる戦略を取った。ミラノやパリの三ツ星レストランで修業した有名シェフ、高級割烹の総料理長クラスをスカウトして、料理の質で負けない体制を作ったのだ。飲食業界はそこら中「真似だらけ」である。アイディア満載の店を作っても、すぐに誰かが真似をする。したがって、この業界ではいかに参入障壁を作るかが重要である。シェフ集めは人材紹介会社を通じて行われたが、坂本は他社がこれからやろうと思っても追いつけないような時間とお金の使い方をしている。

 さらに、スペースの有効活用がこのビジネスのカギである。「グランメゾン」と呼ばれる高級レストランは6時頃に開店して、閉店の10時までお客は一組みしか取らないのが通常である。これに対して、俺のシリーズは同じスペースに高級店の3倍の数のお客を入れ、しかも一晩に3~4回も入れ替わってもらう。スペースをグランメゾンの9倍から12倍も有効活用していることになる。

 以上三つの戦略の組み合わせで、高級レストランに負けない豪華な料理を「居酒屋価格」で提供して、お客さんの支持を得ているのである。ビジネスモデルでキーワードとなるのは、「一流シェフの採用」と「顧客回転数」である、ここでは顧客回転数の威力について詳しく述べたい。

「安田理論」のカギとなる顧客回転数

 俺の株式会社には、副社長の安田道男の名前を冠した「安田理論」なるものがある。社員にとってバイブルになっているが、シンプルかつ説得力がある。

 ここに、2012年7月に「俺のフレンチEBISU」をオープンした時の損益シミュレーションがある(表1)。この店舗スペースで総て着席にすると22席しか取れない。客単価8,000円、顧客回転率0.75となった場合、原価率を17%まで下げて、やっとトントンである。回転数0.75というのは平均すると4分の1は空席という意味だから、現実的な前提であろう。1日の来店客数の想定は16.5人である。

 これが立ち席にすれば50席確保できる。客単価3000円、回転数2.5の場合、原価率が68%でも黒字である。さらに、回転数が4.0になれば、原価率が何と90%になっても黒字になる。想定来客数は200人となり、オール着席の12倍を超える。このように、顧客回転数の威力は凄まじく、回転数を高めれば、原価率が高くても黒字となり、お客さんに高級料理を手頃な値段で提供できるのだ。ただ、顧客回転数を高めるというのは、「言うは易し、行うは難し」である。何故なら、営業時間中にタイムリミットを設けてお客に席を交代してもらわなければならないからだ。この「タイムリミット」がポイントである。

いきなりメイン料理を食べるお客を店は歓迎する


 飲食店では、ラストオーダーになるまで普通お客を店から追い出そうとはしない。「飲み放題、2時間制」という強制的にお客を入れ替える大衆店もあるが、高級店では普通テーブルあたりお客は一晩一組だけである。ところが、時間制を取り入れることは飲食店の経営にとって極めて合理的な選択なのだ。それは、高級イタリアンのコースメニューの構成を見ればよく分かる。コースでは、まず前菜が二種類運ばれ、箸やすめのシャーベットが来て、その後、パスタかラザニア、メインの肉と魚が運ばれ、最後にチーズ、デザート、コーヒーという順番である。

 問題は各料理の単価である。単品で頼むとメインの料理は5,000円~7,000円、前菜が2,000円~3,000円、コーヒーは800円くらいである。ところが、コース料理が提供されている間の店の販売管理費はずっと同じだ。つまり、コース料理の中で店の利益が一番大きいのはお客さんがメイン料理を食べている時間帯で、お客がコーヒーを飲んでいる間は大赤字なのだ。しかも、コーヒーを飲みながらの雑談は長く、その分赤字の時間も長くなる。

 坂本のように気取ったレストランが好きではなく、「俺はコース料理が嫌いだ。いきなりメイン料理を食べたい」などという人は店にとって理想的なお客と言える。したがって、俺のシリーズでは坂本のような考えのお客を多く集めることが肝心だ。前菜とパスタだけで済ませて30分で帰る人もいれば、最初からステーキを注文する人もいる。コーヒーだけの「やたら長い赤字の時間帯」などこの店にはない。

(文中敬称略。次回に続く)

坂本孝(さかもとたかし)/1940年生まれ、山梨県甲府市出身。慶應義塾大学卒業後、数々のビジネスを立ち上げる。1991年、ブックオフを創業し、同社を東証一部企業に育てる。2012年俺の株式会社を設立し、社長に就任。「史上最年長IPO経営者」を目指している。

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