71歳の起業家は独自の調理器を武器にステーキ世界戦略を構築:ペッパーフードサービス一瀬邦夫社長(3)

投稿日2013/12/20

71歳の起業家は独自の調理器を武器にステーキ世界戦略を構築:ペッパーフードサービス一瀬邦夫社長(3

前回、プロのコックの腕を再現する調理器の開発に成功して、ペッパーランチのフランチャイズチェーン(FC)化が可能になったという話を一瀬社長からお聞きしました。ペッパーランチのペッパーライスは一瀬さんの亡くなった奥さんの賄い料理が原点で、元々海外進出の意図はなかったようです。ところが、ペッパーランチFCの特徴は国内より海外の成長が急なことです。2003年、韓国に海外一号店を出して以来、2013年11月時点現在、中国、シンガポールなど12ヶ国で155店舗まで成長し、国内の128店舗を数で上回っています。世界市場でこれだけ多くの出店を果たしている和製外食企業は稀です。

シンガポールを皮切りに海外店舗は年内170店以上に

尾崎: 御社の海外展開に興味があるんですが、韓国に最初の店を出し、今、国別ではシンガポールが最大で36店舗あります。インドネシアが32店、タイが20店ですね。海外展開はどのようなルートを使っているのですか?

一瀬: 今から7年前、ある食品大手メーカーのグループ会社の社長さんが来られて、「ペッパーランチを是非、海外でやらせてください」と言われました。

尾崎: その会社が海外でのFC展開の窓口ですね。

一瀬: ええ、私としては嬉しいです。こういう時の私の良いところは勿体ぶらないところで、「本当にやってくれるんですか。ありがとうございます。」と即決しました。まずはシンガポールでした。あそこに行かれたことあります?

尾崎: シンガポールの大学で5年ほど講義をしていましたので、以前はよく行っていました。

一瀬: オーチャードストリートに高島屋ありますね。高島屋の地下に、吉野家、モスバーガーが並んでいますが、まずペッパーランチが90席くらいの店をオープンしました。

尾崎: 最初にしてはかなり大きな店ですね。

一瀬: うちでは考えられないような規模の店でした。これが大ヒットしたんです。二号店は伊勢丹の地下一階に作って、これも繁盛しました。そうすると、近隣の国からシンガポールに仕事で来られる方々の目にとまって、フィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシア、香港、バンクーバーなどから、どんどん問い合わせが来ました。問い合わせがあると、窓口の大手食品メーカーに国別の販売権を買ってもらい、交渉をお任せしました。
 アジア諸国では大金持ちのオーナーが国内の営業権を仕切っていることが多く、エリアフランチャイズをやってもらいました。皆、段々その気になって、10店~20店舗経営するオーナーさんが増えて来ました。この方々のグループが加速度的に拡大すると思います。したがって、年内に海外170店以上になると見込んでいます。来年は200店も夢ではありません。

ソース、電磁調理器、鉄皿の「三点セット」による世界戦略

尾崎: 一瀬さんのFC展開の特徴は何ですか?

一瀬: 第二回でお話ししたように、FC展開を広く行ううえで武器になるのは、我々が持つ電磁調理器と鉄皿の特許です。電磁調理器に取り付けた温度センサー、軽量化して安全に使える鉄皿は原理がシンプルなだけに、特許に抵触しやすく他社はモノマネできないです。我々が世界戦略に自信を持っている根拠です。

我々は海外展開をしたいFCオーナーを全力でサポートします。実際の店舗運営のマニュアルはFCにお任せして、我々は管理に専念します。

尾崎: 取引先の大手食品メーカーがFC展開できるのは、契約上どこの国ですか?

一瀬: 東南アジア中心の12~3カ国です。あとの地域は空白で、全部これからの決めごとです。広く世界展開できる新たなパートナーがいてくれれば有難いです。

尾崎: 国によってメニューは変えるんですか?

一瀬: メニューは変えていますが、ビーフペッパーライスやステーキはどこの国でも同じにしています。

尾崎: 味は一緒にしているんですね?

一瀬: ステーキソースとバターで同じ味にしています。これが、ステーキという国境を越えてもそれ程変わらない料理を扱っている強みです。ソースとバターは当社のPB商品として絶対はずせない武器です。調理器とソースは当社経由でしか手に入りません。

尾崎: 御社がFCに売る三点セットが、ソース、電磁調理器、軽量穴開き鉄皿ですね。

一瀬: 肉も野菜も当社を経由して買ってもらうことになっています。別に我々が暴利を貪るのではなく、一式セットになっているから、FCが個別に他社に発注するより、当社経由の方が有利だということです。セットにすることによって、世界中で展開できます。

尾崎: 米国では和食が広く浸透しているので、FCの市場として重視されているのではないですか?アジアの次という位置付けでしょうか。

一瀬: 米国は最初に手がけようと思った市場です。実はシリコンバレーのミルピーターズにある中華系のショッピングセンターの中にペッパーランチという名前の店があります。これが我々の目の上のたんこぶになっています。今から20年前に私が現地にいった時にある女性に拝み倒されて、許可したんですよ。
 米国でのFC権利はそこには売っておらず、我々が押さえていますので、その店は多店舗化できない契約です。ところが、誰かが米国でFC展開したいと思っても、名前が一緒なのでその店がネックになります。そこで、当社が権利を買い戻そうとすると、1億数千万円出せ、などと言われています。米国のFC関連の法律は、こういう場合先方に有利で、非常に厄介です。結果的に魅力的な米国市場は後回しになっています。

尾崎: 米国の場合、法的なコストがかかりますよね。アジアとかなり違います。いろんな国で多店舗展開しても、ステーキの場合あまりメニューを変える必要もなく、そのまま受け入れられているということですね。

 最近、世界で日本食に関する認識が急速に高まっています。以前、外国人にとっての日本食は「寿司と天ぷら」ぐらいで、日本人から見ると、「外国人による日本食の理解は底が浅い」という印象でした。味も今ひとつでした。ところが、今は、ラーメン、そば、懐石、おにぎり、照り焼き、焼き鳥など驚くほどバリエーションが拡大しています。しかも、日本人客を殆ど見かけない店が増え、質も底上げされています。逆の見方をすると、日本食のパイは大きくなったが、同じ日本食同士の競争が増え、海外で何か売れるか見極めることが難しくなったと思います。

ビーフぺッパーライスはまかないの夜食から誕生した

一瀬: ペッパーランチにとって追い風なのは、ライス、香辛料のブラックペッパーが国籍問わず好まれていることです。また、醤油文化が広く定着しています。

尾崎: 照り焼きが好きな人が世界中にいますからね。

一瀬: 今度「おねがいランキングゴールド」というテレビ番組で取り上げられますが、海外に出店している数の多いランキングで当社は4位だそうです。

尾崎: 吉野家やモスバーガーなどに次ぐポジションですね。御社FCで海外進出する場合、地域FC方式が向いているということですか?

一瀬: 大手食品メーカーの成功事例があるから、間違いなくショッピングセンターを中心に出していけばニーズはあるんですよ。だからこの記事を読んで、海外でFC展開やりたいと手を挙げる人がいると思いますがね。

尾崎: ビーフペッパーライスは国籍を問わない汎用性があります。FC展開を始める時からこのことを意識されたんですか?

一瀬: 20年以上前、毎晩帰宅が遅い私のために、亡くなった女房が作ってくれた食事がメニューの元になっています。当時、従業員が帰った後で、鉄皿にステーキとごはんを一緒に入れて食べていたのがヒントです。

尾崎: まかないの夜食ですね。

一瀬: そうです。洗いものが面倒なので、ご飯と肉を混ぜて食べていました。私が帰ってきたら「お父さんちょっと食べてみな」と言われて食べたら、これがうまいんですよ。そのうち病みつきになって、これを店のメニュー化できないかと考えました。直営店で、昼間1,000円で売ったら、本当によく出たんです。そして、ペッパーランチでは630円が最初の値段でした。

尾崎: では、国際展開しようと思って特別にメニュー開発したわけではないのですね。

一瀬: その時は海外のことなど何も考えていませんでした。

尾崎: 10年前、最初に韓国に進出したキッカケは何でしたか?

一瀬: ある方を通じて韓国から出店の要請があったのがキッカケでした。行きたくて行ったというよりも、その人のリクエストにお応えしただけですが、結果的にそれが上手く行きました。

ところで、ある日本の寿司チェーンがパリに進出しました。寿司の味に自信を持って絶対売れると思っていたところ、寿司の「おまけ」のラーメンが圧倒的に売れたんだそうです。しかも、15ユーロという価格で。

尾崎: 「ラーメン一杯15ユーロ」とは高いですね。

一瀬: 高いでしょ?あんまり売れたので、最後の日は15という数字をバツで消して25にしたらしいです。普通は15を消したら10に値下げしますよね。ところが25に値上げしてそれでも一番人気らしいです。
 そのかわり、寿司は売れないそうです。何故、寿司が売れないか?寿司はもう珍しいものではなくなっている。だから、ペッパーランチのような料理は珍しがられるんです。そこで、フィリピンでは高級デパートに出して、日本より高い価格で売っています。普通の若者では手が届かない価格で平気で出しています。韓国のFCは、ビックマックをペッパーランチの価格決定の参考にしているようです。

 ペッパーランチの海外展開は順調に進んでいるようです。ところが、外食業にとって致命的とも言える食中毒事件が起きました。2009年、比較的広域の店舗で、食事をしたお客さんが腸管出血性大腸菌O-157に感染してしまったのです。

社員への発信のみならず、社長とアルバイトの距離を近くする

一瀬: 食中毒で四十数人のお客さんが被害に遭われました。本当に大変でした。岐阜の食肉加工会社から仕入れた材料がO-157に感染していたんです。私どもは被害に遭われた方々にお詫びに行きましたし、誰からも言われませんでしたが、記者会見を開きました。情報をフェアに情報開示したかったのです。

尾崎: 食中毒の原因がお店の管理ではなく、仕入れ肉の場合はなかなか防げないものなんですか?

一瀬: そんなことはないです。防がなければいけないものです。最近、外食店の冷蔵庫の中に入って写真を撮るとんでもないアルバイトがいますが、そういうことを防ぐには、日頃からコンプライアンス重視の考え方が浸透しているかどうかですね。我々は大きな犠牲を払いましたが、店舗でも衛生管理、仕入れ先の管理など徹底的に見直しています。

尾崎: マニュアルや規則を守るよう徹底させることで足りますか?

一瀬: それじゃだめですね。店長会議で集まった店長たちを通じて私の考えを社員に発信するだけでなく、社長とアルバイトとの距離を近くします。アルバイトが皆、社長を知って、顔が分かっていることが大事です。社内報200号目がまもなく出ますが、17年間、1ヶ月も絶やさず書き続けてきました。社内報に社長の言葉がありますが、店長達に言葉の意味を説明して、そのうえでマニュアルを実行させます。そのことによってマニュアルが生きてくるわけです。

尾崎: 新たに入社したアルバイトは、定型の仕事だけやれば良い、会社は自分達に関心がないと思えば、大した考えもなく不適切な行動を取るかもしれませんね。社長は自分達に愛情を持っている、「ヤバイことをしたら怒られる」と思わせることが必要です。

一瀬: 社員に社長の考えを理解させるためには、社員と社長の日頃のコミュニケーションが大切です。バーベキュー大会などをしますが、今年は三交代に分かれてハワイアンズで一泊してきました。

尾崎: 一回何人くらい行くのですか。

一瀬: 社員だけで120人くらいです。こんなイベントに行きたくない、個人の自由だという社員がいますよ。こういう場合、「何言っているんだ。お前一人で仕事しているのではなく、組織の一員としてどれだけの大勢の人に協力してもらっていると思っているんだ。単に皆で遊びに行くのではなくて、重要な意味がある」と叱ります。そして、全員行かせました。いつもこんな調子です。

 一瀬社長は「昔風の経営者」と言えます。「昔風」とは良い意味での昔風です。一瀬さんの社員に対する愛情と商品開発に対する情熱は、誰もが真似ることができないものです。経営学の教科書に書かれているビジネスモデルをそのまま実行しようとしても、会社はうまく動きません。それは現場の仕事はシステムだけで動くのではなく、人間によって動かされるからです。特に、外食は人の比重が大きい業界です。こういう世界では一瀬さんの経営者としての情熱が大きなプラスになっています。

一瀬邦夫(いちのせくにお)/1942年、静岡市生まれ。赤坂旧「山王ホテル」でコック修行後、27歳で「キッチンくに」創業。51歳で「ペッパーランチ」のFC事業を始め、64歳の2006年、東京マザーズ上場を果たす。

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