「アイディアを45日後に商品化する」アパレル会社:ゲスト ハニーズ江尻義久社長(3)

投稿日2013/11/19

アイディアを45日後に商品化する」アパレル会社:ゲスト ハニーズ江尻義久社長(3

 ハニーズ株式会社が2001年に生産拠点を本格的に中国に移したのは、SPAの仕組みに中国を組み込むためでした。SPAは、人件費、家賃、物流コストが低い拠点にサプライチェーンの大半を移さないと競争力を持たなくなるからです。ただ、前回お話したとおり、あまり情報がない環境で中国に進出してみると、工場、物流を含めたトータルのシステム改善が待っていました。中国ビジネスでは多くの困難が待ち受けており、トライ・アンド・エラーによる業務改善の連続だったのです。特に、工場での品質改善には苦労したようです。

LCを発行することで、良い関係を築くことができる

尾崎: 中国ビジネスをやられて何が一番難しかったですか?

江尻: まず不良品を減らすことでした。品質のレベルアップに努めましたが、当初は本当に頭が痛くなりました。

尾崎: 中国の工場は日本市場で要求される品質の水準を理解していなかったと思いますが、どうやって、マネージャーや従業員の教育をされたのですか?

江尻: 中国に常駐した人が各地の工場を見て回り、最終的に「この工場だったら良い」という絞りこみをします。その後、我が社が行って視察し、工場と当社商品を作る契約をします。この時、先方の生産キャパシティ以上の仕事を与えないよう気を付けることが大切です。キャパを超えた仕事を与えると、下請けに回されて不良品が多くなりますから、そういうことは禁止しました。また、縫製のプロが日本から行って指導して、認定工場にするという流れですね。

尾崎: 工場の経営は御社と中国企業との合弁ですか?それとも内資(中国人が経営する会社)ですか?

江尻: 工場自体は、ほとんど内資か韓国資本です。日本向け工場は日本向け製品しか作っていないことが多いです。社長から営業担当まで皆日本語が出来ます。韓国の企業に作ってもらった工場もありますが、だいたい3分の2は中国国内向け製品を作ります。

尾崎: 日本側の影響力を工場経営に及ぼさなければならないので、私はてっきり合弁だと思っていました。

江尻: それはないです。きちんと指導して、先方にLC(信用状)を発行させることは、小さな工場を育てるには良い方法です。LCを出すことによって、工場は我々から前金がもらえますから。金利負担はしなければなりませんが、最初の準備金が無くても生産出来るので、工場にとっては良い取引になります。ただ、作った製品の品質に定評がなければ、工場は前金など貰えません。だから、先方も一生懸命社員教育を行って不良品を出さないようになります。そうやれば、我々とも良い関係が築けるんですよ。

尾崎: 不良品を出させないためには、プレッシャーを与え、ペナルティを課すことに傾きがちですが、工場側に良い製品を作るインセンティブを与えることが重要ですね。商社に任せていると、とにかく商品が右から左に動けば良いということになって、工場の方に品質を改善するインセンティブが生まれません。

江尻: 商社を介した取引の場合、不良品を出してもペナルティを払えば済むから、むしろ品質を下げる工場が出てきます。その方が工場にとって儲けになるわけです。

尾崎: 不良品のペナルティやマージンは商社の懐に入るわけですから、「頑張れば、商社に払っていたお金がおたくのものになるよ」という説得をするわけですね。

 ハニーズはSPAの生産拠点を作るために中国に進出しましたが、最近はそれだけでなく、中国国内での商品販売をかなり伸ばしています。国内830店舗(2013年5月現在)に対して、今年の新規出店予定を加えると、中国店舗が国内店舗にほぼ迫ろうとしています。ユニクロ(ジーユー等、他の店舗ブランドは除く)の国内店舗数が852、海外店舗数が410(うち中国・香港が218)ですから(いずれも2013年7月現在)、ハニーズの海外比率の高さ、特に中国への一極集中が目に付きます。中国の高度経済成長が完全に失速したことと、反日運動のリスクを考え、中国での事業拡大に二の足を踏んでいる日本企業が目立ちます。今後の中国ビジネスについてお聞きしました。

すべて早め、早めに手を打つことが基本

江尻:  中国で一昨年は170店舗、昨年209店舗作って、今現在550店舗くらいになっています。今年も180店舗作る予定です。

尾崎: それはかなり大変ですね。

江尻: 大変ですよ。中国の景気は昨年の5月からおかしくなっていたのですが、過去1年で高度成長が終わった節約ムードから需要が減りました。つまり、中国バブルが崩壊したのです。中国が本格的に資本主義に移行したのが1990年だとすると、もう23年成長が続いたことになります。
 GDPの前年比成長率が一度も二桁を切らなかったのが、ガクンと下がって今は7%くらいです。現実にはバブル崩壊ですよ。7%は日本から見れば高い成長率ですが、短期間でガクッと下がるのは本当にインパクトが大きいです。これまでは中国の人は儲けたお金を全部使っても、後でいくらでも入ってくるという感覚でしたが、「ちょっと待てよ」となっています。ちょうどバブルの頃の日本と同じです。

尾崎: 反日運動はあまり関係なかったですか?

江尻: 無かったですね。我々は基本的に日系企業だという宣伝は一切していないですから。

尾崎: 同じ中国でも、内陸部と沿海部では経済の状況がかなり違います。国全体の平均経済成長率は7~8%ですが、早くから成長していた北京、上海、広州などの沿海部は落ち込みが大きく、第12次五ヶ年計画の重点地域である四川省、重慶などは比較的高い成長率を維持しているようです。開発が遅れた地域は依然成長を維持していませんか?

江尻: 最初にバブルが崩壊したのは上海ですが、段々と奥地に影響が及んで、今は四川省の成都の売り上げがガクンと落ちています。

尾崎: 沿海部だけでなく、内陸部にも影響が及んでいますか?

江尻: 一時、内陸の省を振興する政策の効果が出ていました。ところが、内陸部の省が借金頼みで不動産開発に走り、大変な状況らしいです。中央政府が地方政府同士の競争を奨励し過ぎた弊害でしょうね。しかし、人口は多いので、アパレル業界の落ち込みは3年くらいだと思います。日本のバブル崩壊時も3年ほどで回復しましたから。

尾崎: 3年くらいで回復したんですか?1990年後半は消費税率引き上げと金融不況が重なったので、もっと時間がかかった印象がありますが。

江尻: 我が社も創業してその3年間だけが赤字でした。当時、そのうち売り上げが戻ってくるだろうと楽観していた企業はみんな潰れましたね。経費を削減し、不採算店舗を閉鎖したこところは何とか生き残りました。
 我々も1990年には130店舗あったんですけど、93年から96年の間に110店舗潰し、その後、景気が回復した時に120店舗作りました。それに耐えられたのは、バブルの時に我々がすごく高い店舗保証金を取られていたからなんです。坪100万くらい取られました。店を閉めれば、保証金を回収できるので新規出店の資金にあてました。

尾崎: ところで、ミャンマーにも工場を作られましたね。

江尻: 昨年、稼働しました。テイン・セインが大統領になった時に、どういう人かいち早く情報を集めたら、間違いなく優れた政治家で、民主化の流れは止まらないでしょうということで、進出を決めました。

尾崎: 準備はいつごろから始められたんですか?

江尻: 3年ほど前ですね。テイン・セインの大統領就任が完了するかどうかといったタイミングでした。

尾崎: 昨年ごろからミャンマーの市場調査を本格的に始めた会社も多いですから、御社はかなり早いですね。

江尻: 何でも早め早めに手を打ちます。中国にも早めに店を出し、自社生産によるSPAは2001年から本格的に始めましたが、やはり時代の流れはよく見ないと駄目です。中国の人件費が上がって、「それじゃあチャイナプラスワンで次のことを考えなきゃいけない」と思ったのが3年前でした。3年前に深センの労働争議で自殺者が出ましたよね。現地の人に聞くと、それから人件費が3倍になっているんです。3年で3倍ですよ!これはもう止まらないでしょう。

尾崎: ASEAN市場での商品販売は考えていないんですか?

江尻: よく聞かれますが、考えていないです。なぜかというと、東南アジアは1年中夏みたいな場所で、冬物が売れないからです。アパレル業界はセーターやジャケットなどの冬物で採算を取るので、Tシャツや短パンばかり売ってもあまり儲けにならないんです。だから、日本や中国、アメリカやヨーロッパのように春夏秋冬があるところに洋服は向いています。

尾崎: 夏物しか売れないということは単品を売っているのと同じで、リスク分散が出来ませんよね。また、洋服は季節が変わることがきっかけで買うものですから、東南アジアでは、一年中同じ服を着ていても気にならないかもしれません。
 アパレルなどの消費者向けビジネスを考え上で、インターネットの活用、インターネット販売(イーコマース)企業との提携・競合を考えなければなりません。アパレル販売におけるリアル店舗の比率は依然大きいですが、楽天やアマゾンの成長には目を見張るものがあります。また、最近はZOZOTOWNのような新しいサイトも伸びています。

「価格設定は安く」という理念により、プロパー消化率は高い!

江尻: アパレルのECでの売り上げは、どの企業も5~10%まで行けば良い方でしょう。女性はネットで見るだけでなく、服の本物の色を気にしたり合わせてみたりするので、リアル店舗での販売がこれからも主流だと思います。我々は楽天、アマゾンとの提携、自社サイトを通じたインターネット販売も行っていますから、市場の流れ次第で力を入れていけば良いと思います。

尾崎: 「ZOZOTOWN」はどう思われます?これはスタートトゥデイが運営するアパレルのECサイトですが、ネット店舗しかありません。

江尻: ZOZOTOWNは高級ブランドを扱っていますね。我々とは取り扱う商品が違います。

尾崎: 楽天はモールですから提携しやすいと思いますが、アマゾンは提携しやすい相手ですか?

江尻: 我社は昨年の4月からアマゾンと取引しています。

尾崎: アマゾンは資本力があってすごいと思いますが、メーカーと協力して一緒に儲けましょうといった感じではないという評価が強いですが…。

江尻: そうかもしれませんね。でも我々の商品は粗利が高いので、売っていくらかのマージンが貰えるなら全然問題ないです。自社の物流センターがかなり大きいので、どこと組んでも我が社は自分でお客さんに直接発送できます。

尾崎: 物流センターが脆弱な企業、粗利が低い企業は大変でしょうね。楽天やアマゾンに手数料を払ったら、殆ど利益が残らないかもしれません。

江尻: 我々はおかげさまで粗利が高い商売なので、どこを通して売っても、売れさえすれば儲かります。

尾崎: アパレル業界はマージンが低い企業が多いですよね。

江尻: 我社は決算粗利で58%に近いです。

尾崎: 普通は30%ほどですか?

江尻: スーパーで販売する場合30%ほどでしょう。上場会社の専門店なら50%ほどにはなっています。株式会社ポイントの粗利が一番高く、58%以上、我社が2位で、ユニクロが52、3%ぐらいだと思います。
 我が社の2~4倍の価格で売っているのに、粗利が我々より低いメーカーがありますが、バーゲンセールが多いはずです。我社はプロパー(正規価格)消化率が高いのですが、価格を安く設定してプロパーで売るか、価格を高く設定してバーゲン時に5~7割引きで売ってトータルで粗利をとるかという考え方の違いです。我々は田舎出身なので最初から「価格設定は安く」という考えです。
 2012年に日本生産性本部が顧客満足度調査を行いましたが、一位が西松屋で、二位が我が社でした。お客さんが出したお金と比較して当社商品は価値があることが認められたようです。また、「次に買い物をするときにはどこを使うか」という顧客ロイヤリティーの調査では、我が社と西松屋、ユニクロが同点一位でした。

尾崎: これまで経営でのご苦労が色々とあったと思いますが、何が一番大変でした?

江尻: 今の事業環境では「最初から上手く行くことなんか何もない」と考えています。失敗したら原因を考えて、それが分かれば後で直して、そのうちなんとかなるというやり方です。全国展開を始めた時も、最初から売れるとは思っていなかったです。徐々に社員教育をして行けば、お客様は後からついてくると思っていました。ミャンマーに工場を出して一年が経ちますが、最近ようやく品質が良くなってきました。これまで何度もテレビ会議を通してどうしたら不良品を減らせるかを繰り返し議論してきましたが、これを続けることでレベルアップすると思います。

尾崎: ミャンマーの不良品の原因というのは、中国と同じですか?

江尻: まだまだレベルが低いですね。全然洋服を縫ったことのない人間に少しずつ練習させて行くわけですから、ミャンマーはあと5~10年かかると思います。ミャンマーの人は真面目で勤勉ですが、ずっと軍事政権下だったので資本主義に慣れていません。最近やっと何とかなりそうだと感じてきたところです。
 ずっとそういう苦労をしてきたので、最初から上手くいくはずなどないと思っています。ただ、上場してお金に困らなくなったのは経営者として一番安心ですね。1990年の店舗スクラップアンドビルドをやっていた頃は、「銀行が金を貸してくれなくなれば終わり」という崖っぷちでしたが、今は自己資本比率が80%以上になりました。

尾崎: それは凄いですね。

 ハニーズにはユニクロのような知名度はありませんが、顧客満足度、売上・店舗成長率を見ると、極めて強い会社だという印象があります。2010年以降、売上の落ち込みに苦労していますが、リーマンショック前の水準まで戻って来ました。日本企業では珍しく、日本ブランドを前面に出さずに中国市場への浸透を図っています。今後は、中国市場での成長と、「流行を先取りしない商品開発」が有効であり続けるかに注目したいと思います。

江尻義久(えじりよしひさ)/1946年福島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、家業のエジリ帽子店へ。1978年エジリを設立し、1986年ハニーズに社名変更。2005年東証一部上場。

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