日本のオタクが「事業の夢」を実現する!:ゲスト デジタルハーツ宮澤栄一社長(3)

投稿日2013/09/23

日本のオタクが「事業の夢」を実現する!:ゲスト デジタルハーツ宮澤栄一社長(3


デバッグを専業とするデジタルハーツは、元作詞家兼実質フリーターの宮澤社長と数人のオタクグループでスタートしました。第二回に書いたとおり、彼等の堅い結束はこれまでの成長を支えてきましたが、現在は従業員・アルバイトを含めて1万人近い東証一部の大企業です。社員の結束を維持するのは難しくなる一方のはずですが、宮澤さんは独自のシステムを作ってこの問題に対応しています。

業務部門の社員の8割が元アルバイト

尾崎: 今8,000人のアルバイトの方がおられますね。この数になると、社長が直接話すのはもはや不可能ですが、どういう対応をされているのですか?

宮澤: まず、入社時の「デジタルハーツはこういうものなんだよ」という教育はとても熱く行っています。その時点で、「こんな熱い会社は嫌だな」と思う人は入社しないと思います。メンバーは皆、仕事に対して熱いですから、「ゲームで遊びたいからアルバイトしに来た」という人は多分長続きしません。また、入社後の現場でのチーム運営システムは真剣に考えられたものです。
 今いる業務部門の社員も8割くらいが元アルバイトですよ。社員もアルバイトの気持ちをよく分かっていますから、アルバイトの方々の不安な気持ちもサポートできます。彼らには「社員になったら守る側になるから、逆に段階が一つ下になるんだ」ということをよく言っています。また、アルバイト時代に「こんなこと嫌だな」とか「変えたい」と思っていたことを社員になって改良することを奨励しています。もちろん、8,000人になれば色んな所でトラブルは起きていますが、それも自分たちで解決していく決まりになっています。
 実はそれがノウハウとして溜まっているから、組織が大きくなっても生かすことができます。8,000人になってもこれまでトラブルは少ないです。もっとギスギスしてしまうと思っていましたが、今のところ大丈夫です。皆で飲みに行ったり、ゲーム大会をしたりなど、以前と全然変わらないです。

リーダーとエキスパート、社員を二つのカテゴリーに分ける

尾崎: どこの会社も規模が拡大すると、社員の共感を維持することに苦労しますが、御社ではそんな心配はないんですね。しかし、グループリーダーの候補者はしっかりと見て適性を考えなければなりません。

宮澤: そうです。うちの社員のキャリアは大きく二つに分かれています。ひとつはリーダー、副リーダーのマネージャーになる人達。もうひとつはエキスパートとしてデバッグの仕事を突き詰めていく人達です。各社員がどちらのタイプが向いているかは見極めています。

尾崎: なるほど。「マネージャーになれないから仕事ができない」ではなく、「エキスパートを目指した方が君の良さが出るよ」という指導をされているんですね。社員を二つのカテゴリーに分けることはシンプルで良いです。階層が分かれているというより、組織が横に広がっている感じがします。

宮澤: 大所帯になると、とにかく催し物をして何とか一体感を出そうとしている会社もありますが、私はそういうことはやりません。社員が勝手にやるのです。休日も集まってゲームをしたり、ご飯を食べに行ったり、旅行に行ったり、本当の家族のようになっています。
 我々の世代はお爺ちゃんやお婆ちゃんが孫に戦争の話をしてくれて、近所では年長の子供も幼い小さな子供も、皆一緒になって遊んでいましたね。しかし、最近は、祖父母と滅多に会えないし、同級生だけとしか遊ばなくなり、家族や共同体での過ごし方が学べず、人との付き合い方が分からない若者が増えています。そういった若者に、「社会って全然怖くないんだよ、一緒に働いている年上の人もゲーム好きで頑張っているんだよ」と教えてあげたいんです。

尾崎: これまで社会の仕組みを学べなかった人が職場で学べることが分かると、そこが好きになって、一生懸命働くわけですね。

宮澤: 社員にもアルバイトにも、会社をよくするために何をするかは、完全に任せています。少し前に、社内で「デジタルハーツゲーム大会」なるものを開きたいという申請があったのですが、よくよく開いてみると、多くの企業に協賛いただいているのです。また、「ミニ四駆大会」を他の企業と合同で開催して、ついでに優勝したという話もありました。ゲーム大会は仕事と関係ありますが、ミニ四駆は全然関係ありません。皆アルバイト社員の発案でした。
 また、社内のリフレッシュルームの自動販売機の商品もうちの社員が決めています。普通、自販機の業者さんが考えることでしょうけど。そのせいで、なぜかドクターペッパーばかりの自販機があったりして、楽しいです。さらに、コンビニから少し遠い場所にある拠点では、セブンイレブンさんにかけ合って社内に出店してもらっています。これは全国的にも殆ど例がないそうです。

尾崎: 驚きですね、セブンイレブンはそんなリクエストを簡単に聞いてくれる会社ではないと思っていましたが。

宮澤: 最初は品数も少ししかありませんでした。レジも無くて、設置されている箱にお金を入れて自分で清算するんです。したがって、勝手に商品を持って行くこともできるし、お釣りをごまかすこともできます。しかし、全くお釣りが狂わないので、「こんな正直な会社は見たことない」と先方に言われてどんどんスペースが広がり、今では通常の店舗みたいに大きくなってしまいました。こんな素晴らしい話は世界中にそんなにないはずだと、私は誇りに思っています。

会社の視線は数字ではない。「100%人」である

尾崎: 御社の人を育て、生かす仕組みは他の「普通の会社」でも機能すると思いますか?「普通」の意味は、ニートやフリーターばかりではないという意味です。

宮澤: いやぁ、どうですかね。うちの会社は特殊だと思います。私はよく「ニートやフリーターを雇って社会貢献をして凄いですね」と言われますが、正直、そんな認識はありません。
 彼らは情けでお金を貰っているのではなく、自分の力でお金を稼いでいます。アルバイトの中には、生活保護を貰った方が、収入が高くなるケースもありますが、それでも当社で稼いで、税金を払って、そこにやり甲斐や使命を見出しているんです。皆、本当に純粋です。こういう人達に「仕事は君にまかせるよ」と言うと、本当に真剣にやりますね。人は能力や努力を認められると絶対伸びるものです。

尾崎: 社員やアルバイトとして採用する時に、純粋かどうかも採用基準になりますか?

宮澤: それはあります。よく企業は歯車に例えられますが、社長だから歯車が大きいのではなく、私の歯車はアルバイト社員と全く同じと思っています。ただ場所が違うだけで私は社長をして彼らはデバッグをします。その社員が成長し歯車が大きくなったら、その隣にいるリーダーや他の社員も成長する必要があり、必然的に社長も成長しないと駄目でしょう。
 当社は周囲から東証一部の会社として見られるようになったので、創業時はPER(株価収益率:株価を一株あたり利益で割った指標)という言葉も知らなかったような私でも、社長の仕事をしないといけません。ただ、これは私自身の努力でなく、社員達の成長に後押しされた結果です。

尾崎: 何らかの理由で人生に挫折して、今は生活保護になっているような若者も、こういう接し方ひとつで変わるかもしれませんね。

宮澤: そういう人は一回試しに汗水垂らして自分で稼ぐことを経験したら、変わると思うんです。うちの社員の中にも以前はそういう状況にあった者がいますが、今では働く喜びを知り、クライアントとの交渉もひとりでできるまでになっています。彼ら自身が外部から評価されて事業が大きくなっているので、会社の視線は数字ではなく、「100%人」です。
 
 以前、宮澤さんから、「デバッグは日本人独特の几帳面さが強みだ」という話を聞いたことがあります。日本人独特の几帳面さとは、例えば、「本屋で平積みになった雑誌を買う時、誰かが既に立ち読みした一番上に置いてある本ではなく、二番目の本を手に取ってレジまで持って行く」という感覚だそうです。これは日本人独特の「細かいところにこだわる性向」とも言えますが、デバッグを行うには強みになるでしょう。そういう細かいところが気になる感覚では、日本に劣るはずの米国やタイに宮澤さんは事務所を開きました。一見矛盾するように思われます。一体どういう意図があるのでしょうか?

公共の利益を守る―「夢」を日本のオタクに託す

宮澤: 米国にもオタクと呼ばれる人達(筆者注:英語では「ナード」「ギーク」などと呼ばれる)がいます。ビジネスを広げる場合、地域特性に合わせることが絶対に必要です。我々は日本人にしか分からない感覚で事業を始めましたが、米国では、米国人じゃないと分からない感覚が必要です。例えば、能動的なデバッグにしても、米国には日本と違ったチェックの仕方があります。

尾崎: もう少し具体的に言うとどのようなことですか?

宮澤: 例えば、ゲームをして「面白い」と思うポイントが両国で違います。日本人はロールプレイングゲーム(RPG)が好きですけど、米国人はRPGを好きではなく、戦争ゲームなどを好みます。そこで、日本製のゲームを米国で売り出す時、現地で雇ったスタッフにデバッグと米国人が面白いと思えるようなソフトのチューニングをしてもらいます。

尾崎: 確かに米国の地域特性はありますね。日本アニメはフランス人に好まれますが、米国ではあまり人気がありません。米国人はスパイダーマンやバットマンなどのスーパーヒーローが好きですから。米国の地域特性を考慮するのはデバッグの方法だけではないのですね?

宮澤: 現地にチューニングは任せますが、「ここを変えて欲しい」という仕様は日本で決めます。

尾崎: 今までは御社はゲームソフトを中心のビジネスをされてきましたが、ゲームは専用コンソールからパソコン、スマホ...と遊ぶために使うハードが変わってきているので、デバッグのバリエーションが増えるはずです。また、従来はゲーム好きでなかった人もパソコンやスマホでゲームを楽しめるようになったので、御社の対象市場はかなり変化していませんか?

宮澤: その通りです。最近はサイバーセキュリティ事業を始めましたが、我々はセキュリティやハッカーのことを全然知らなかったので、奈良先端科学技術大学院大学や東京大学の教授に当社のやり方を見てもらいました。そうすると、「デジタルハーツがやっていることは、まさしくハッカーと一緒ですよ」と言われたんです。デバッグの手法は、実はハッキングと似ているんですね。システムに侵入して色々な悪さをするのがハッカーで、入口でトラブルを見つけるのがデバッグですが、両者の観点は一緒だと指摘され、「じゃあ、サイバーセキュリティも同時にやってみよう」ということになったんです。

尾崎: これまで蓄積したアセットが、そのまま新規分野で使えるんですね。

宮澤: デバッグで発揮された「日本人のトラブルを見つける力」はサイバーセキュリティの世界でも威力を発揮すると思います。中国にはハッカーが1万人いるといわれていますが、日本人の「守る感覚」がどのくらい有効なのか試したいと思います。

尾崎: 国内で、この分野はどこが強いのでしょうか?

宮澤: いや、うちのようにこれだけの人数を組織化しているところはまだ無いと思います。

尾崎: システム開発の会社が内部組織としてデバッグ部門を持っているかもしれませんが、あくまでソフト開発の補助事業であり、社内の位置付けは低いでしょうね。米国にもデバッグの組織は無いのですか?

宮澤: 米国では、企業でなく政府がサイバーセキュリティに取り組んでいます。政府主催のゲーム大会で上位入賞した人達を、軍がサイバーセキュリティのスタッフとしてスカウトしているようです。4~5年前に海外の投資家と話した時、「あなたの会社は必ず軍事分野に進出する」と指摘されました。サイバーセキュリティは国を挙げてやらなければいけない事業ですから、うかうかしていると、情報が盗られる一方です。
 この前も宇宙航空研究開発機構(JAXA)の有人実験施設「きぼう」の情報が盗られたというニュースがありましたね。米国ではゲームのヘビーユーザーがハッカー集団になっています。日本のオタクはハッカーになるのではなく、公共の利益を守ることに能力を活かしていくべきです。その仕組みを創っていくことが「私の夢」となりました。

 サイバーセキュリティの重要性がますます高まっています。米国、中国、ロシアなどは、政府がリーダーシップをとってセキュリティ対策をしていますが、日本は情報保護の法律が不備なこともあり、取り組みが遅れていると言わざるを得ません。ただ、政府、民間いずれが主導するにしても、サイバーセキュリティに重要なのは人材に尽きます。ここで活躍するはずの「オタク」達は、「面白うそうだから」という理由でハッキングをやるのではなく、「国のために役に立つから」という理由で、自分達の能力を生かす環境作りが必要だと思います。

宮澤栄一(みやざわえいいち)/1972年栃木県生まれ。1991年県立真岡高校卒業。家業を手伝い、23歳で役者を目指して上京。ミュージシャンや作詞家の活動も行う。2003年デジタルハーツを創業し、08年マザーズ上場、11年東証一部に市場変更。

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