絶対社長になりたくなかった」ベンチャー創業者:ゲスト デジタルハーツ宮澤栄一社長(1)

投稿日2013/09/11

絶対社長になりたくなかった」ベンチャー創業者:ゲスト デジタルハーツ宮澤栄一社長(1

「デバッグ」という言葉をご存知でしょうか?コンピュータソフトや電子機器のバグ(欠陥)を発見・修正して製品を正常に戻す作業を指します。ソフトを開発している会社は必ず内部で自社製品のデバッグを行いますが、製品が複雑化していることに加え、開発従事者によるセルフチェックになるため、自社だけで完璧にバグを発見して取り除くのは極めて困難です。しかし、これを怠っていてはユーザーからの評価を落としてしまいます。
 デジタルハーツは、そのデバッグ業務のなかで、バグ(欠陥)の修正は行わずに、ユーザー目線によりバグを発見することに特化したサービスを提供している大手企業です。同社のサービスは「デバッグ事業」と呼ばれています。デジタルハーツは、ソフト開発をしている企業からこのデバッグの委託を受けるビジネスを作り上げ成長してきました。2013年6月、新宿の本社で宮澤栄一社長とお会いしました。

ユーザーはどんどん賢くなり、品質が製品評価に直結する

尾崎: お久しぶりです。業績が順調に伸びてらっしゃいますね。これはソーシャルゲームなどが伸びて、ゲームのデバッグが増えていることが関係していますか?

宮澤: そうですね。ソーシャルゲーム業界も品質管理を真剣に考えて、当社のデバッグを採用いただいています。我々も創業から間もない頃はデバッグ事業だけに集中していましたが、10年以上を経て、サイバーセキュリティなども手掛けるようになり、サービス領域が拡大してきました。
 ただ、我々の業務の中心はあくまでデバッグ事業です。ゲームの開発期間は短期化している一方、ユーザーからの品質に対する要望も増大しており、作り手は品質に対するこだわりが強くならざるを得ません。一度製品を出してバグがあると、ユーザーに敬遠されます。したがって、発売前にどれだけバグを排除して作り込むかが重要になってきます。そのためには、開発者は開発に専念し、デバッグはその専門家に任せたほうが効率的です。「デバッグを外部に委託すること」の重要性を分かって頂ける企業が増えてきたと思います。

尾崎: さっき私の大学のゼミ生と話していたんですけど、最近はゲームが常にインターネットに繋がっており、商品はリリース後でも作り手がオンラインで更新できます。更新の際にバグは修正できるので、「バグがあるのは当たり前」というのが彼らの意見ですが、実際はそんなに甘いものじゃないということですね。

宮澤: バグがあるかどうかで製品の評価が大きく変わります。「後でバージョンアップすればいいや」でなく、「最初の段階でどれだけバグのないソフトを作るか」でゲームユーザーからの製品に対する評価はガラリと変わってきます。また、その評価が重要視される傾向はますます加速しています。

尾崎: 品質への評判はネットですぐ広がるし、この問題を甘く考えると淘汰されるのも早いでしょうね。

宮澤: 開発側は頭のどこかで「多少のバグはあっても仕方がない」と思うことがあるかもしれませんが、リリース当初から、動かない、動作が重いとなると、ユーザーは他のゲームを選ぶようになってしまいます。

 宮澤さんは栃木県出身ですが、波乱万丈の少年時代を送っています。お父さんがカメラ部品の工場を経営して幼少時代は裕福だったのですが、小学生になったばかりの時期に父親の会社が倒産します。身を隠す両親に代わって、幼いながら借金取りの応対もしたようです。その後、母親が別の商売を始め、「商売人の息子は商売をするべきだ」という教えに従って、母親の仕事を手伝います。しかしその会社も経営不振になり、宮澤さんは清算事業に携わりました。

 二度も親の会社の倒産を目前にして経営者の大変さを知る彼は「自分は絶対社長になりたくなかった」と様々な場所で発言しています。彼は「絶対社長になりたくなかったベンチャー創業者」なのです。しかも、「我々の社員は皆、オタクで元フリーターやニートです」というのも同社のユニークな点です。

縁やタイミングが作用して社長になった

尾崎: 宮澤さんはご自身の意に反して社長になってしまったそうですが、それは、当時一緒に仕事をしていたゲーム好きで社会との関わりが苦手な仲間たちのためだったそうですね。確かに仲間のためというのは強い動機だと思いますが、それだけだと自分自身は辛いでしょう。絶対になりたくなかった社長になった、一番強い理由は何だったんですか?

宮澤: 縁やタイミングが強く作用したんだと思います。最終的には自分の意思で社長になったんですが、いろいろな人との縁がありました。私は「お婆ちゃん子」だったんですが、そのお婆ちゃんがガンになり、父親が病で倒れるといったことが同時期に起きました。それが、「今後、自分はどうやって生きていこうか」と悩んでいた時と重なったんですね。
 母の会社を清算後、私は役者や作詞家をやっていましたが、実質フリーターでした。果たしてそれが私のやりたいことなのかも分からなくなっていました。同時に、今まで会ったこともなかった世間で言われる「オタク」の人たちとたまたま一緒に仕事をすることになったのも何かの縁でした。

尾崎: 芸能界にはオタクはあまりいないですよね。

宮澤: あまりいなかったです。学生時代でもそういった人達との付き合いは無かったですし、正直、私自身も馴染めないのではと思っていました。でも、一緒に仕事をして、遊んだりしていくうちに「こんな純粋な子たちがいるんだ!」と正直驚いたんですよ。
 彼らとの出会いや、自分の人生の転機など、そういう縁が全部重なって、「じゃあ、会社をやってみようか」となったのです。
 私は人との出会いとか縁が好きなんです。当時、結婚は全然考えていなかったんですが、病床の祖母の願いもあって結婚しました。そうなると、結婚したんだからきちんとした仕事をしなければいけないとか、本当にいろんな縁が重なって会社を作ることになりました。
 一方、その時期、父親の寿命が3年ぐらいだと宣告されていました。そこで、その3年間は「本当に自分以外の周囲の人のためだけに生きてみよう」と思ったんです。「一生そうする」というのは嘘っぽいし、少なくとも私にはできそうにありませんでした。でも「仲間や後押ししてくれる人たちのために働こう!」、キレイごとでなく「自分はどうでもいい」とその時、純粋に思えたんです。

作詞家の経験がいかに経営に役立ったか

尾崎: それは貴重な経験をされましたね。経営が苦しい時、初心に戻ると気力が湧くのではないですか?以前、作詞家をやっていたことが営業に役立ったとおっしゃっていましたが、他に音楽が経営に役立つと感じることはありますか?

宮澤: 音楽事務所での人との関わりが大いに役立ちました。例えば、事務所の社長によく言われたのが「何で俺はお前を作詞家として使っているのか分かるか?才能を評価しているのではなく、お前は便利だから使っているんだ」とか、「結局お前は上手い、早い、安いなんだよ」といったことです。社長は音楽ではなくそういう話をいつもしてくれて、私に自分の役割や方向性を気づかせてくれました。
 オーケストラと会社の経営はすごく似ています。指揮者に話を聞くと、演奏中皆で一体感があるときは、指先に音がついてくる感覚があるらしいんです。私も会社では指揮を取らせて頂いている感じでしょうか。演奏は下手くそかもしれませんが、誰よりも曲自体を勉強し、知り、そしてどのように曲を展開していくのか、将来を常に考えなくてはならないと思っています。クラシックの演奏は数十分で終わりますが、会社経営は何十年も長い曲を演奏しているのと同じで、盛り上がるときもあれば、静かに抑えるときもあります。音楽をやっていたからこそ、私は会社で指揮が出来ているのだと思います。
 さらに、作詞家をやっていて良かったのは、皆に分かりやすく自分の想いを伝えられることです。私が最初に会社のメンバーに伝えたのは「お金って何だろう」「仕事って何だろう」「挨拶はなぜ必要なのか」といったことです。皆からすれば「挨拶なんかしなくてもいいじゃないか」と思うかもしれませんが、なぜ挨拶が必要なのか簡潔に伝えなければいけないんです。

尾崎: 作詞家の経験は「自分の想いを伝える」時に役立つわけですね。

宮澤: そうです。感覚を表現するということでしょうか。社名の「デジタルハーツ」も、海外の企業を訪問した時、先方に誉めてもらったんですよ。「名前がすごくクール(格好良い)ですね」と。海外の方にお会いすると、いつも社名を誉められます。皆さん、「英語がネイティブの人だったら“Digital Hearts”という言葉は絶対に思いつかない」とおっしゃるんですよ。

尾崎: 日本人にはピンと来ませんが、英語圏の人にとっては、独特の響きがある言葉なんでしょうね。

宮澤: そのようです。私が気に入っているフレーズに、「メイド・イン・ジャパンからチェックド・バイ・ジャパンへ」というものがあります。これはネイティブの人にとっては上から目線に聞こえるらしいです。

尾崎: “Checked by Japan”は「日本流の繊細なデバッグを世界に広げる」意味です。日本人にとっては「日本人がチェックする」という意味しかありませんが、英語圏では「チェックしてやる」というニュアンスになるんでしょうね。

宮澤: 我々は意図せずに外国人にとって印象的な名前を付けたので、その点は強いですね。社名に「Heart(心)」という単語をどうしても付けたかったんです。作詞家をやっていて良かったと思いました。

 次回は創業時の危機をどのように乗り越えたのか、そして社員との信頼関係をどのように築いてきたのか、その方法論をお聞きします。

Copyright©2013 Hiroyuki Ozaki. All Rights Reserved.


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