「俺は絶対にこれを続ける!」という揺るぎない信念を社員に見せ続けてきた/ネクスト社長 井上高志(3)

投稿日2013/09/10

俺は絶対にこれを続ける!」という揺るぎない信念を社員に見せ続けてきた/ネクスト社長 井上高志(3

株式会社ネクストの井上高志社長は「不動産の情報インフラをつくる」という目的を数字的には徐々に達成しつつあります(その1、その2参照)。また、リクルートなどの競合会社も懸命に追い上げてきます。これからは物件情報を掲載する会員企業(不動産会社)、サイトを利用して不動産情報を検索するユーザー双方にとっての利便性を改善するなど、新たな成長戦略が必要になると思われます。今後の不動産市場、ネクストの方向性をどのように考えているかをお聞きしました。

新サービスの根底は「不安を安心に変える」がテーマ

尾崎: 最近、御社は不動産以外のサイトを始めています。イーコマース業界は、「何を売りたいか」ということを明確に決めてそこからブレない企業と、「何を売るかはこだわらない」というスタンスで市場ニーズに対応する企業に分かれると思います。井上さんの不動産へのこだわりはどうでしょうか?

井上: 我々は不動産分野からスタートしましたが、そこにこだわっているわけではありません。最初は不動産の流通情報を変える、住み替えユーザーに満足してもらうというのが目的でした。ところが、現在の経営理念は『常に革進することで、より多くの人々が心からの「安心」と「喜び」を得られる社会の仕組みを創る』としており、他分野でも事業展開しています。世の中の不安を、どうやったら安心に変えることができるかがテーマで、我々の新サービスの根底もそこにあります。
 同時に、HOME’Sのアジア展開も行っています。また、不動産業界のB to B業務(企業間のサービス提供)はITを通して合理化する余地は大きいと思います。B to BのITサービスは今まで無かったわけではないですが、「決定版」はありませんでしたからね。

尾崎: 不動産業界は零細企業が多いから、ちまちました投資しかできなかったんでしょうね。

井上: クラウド型でサービスを提供して、単価が月額1万円程度ならニーズがあると考えています。不動産業務と密接なシステムであれば、我々のサービスを継続して使っていただけると思います。他には、地域情報、金融のポータルサイトなどの多角化も行っています。

尾崎: 地域情報や金融のサービスを個別に提供しているサイトはいくらでもありますが、御社は不動産と結び付けてサービスしているから強いのでしょうか?他社と何が違うのですか?

井上: 金融は不動産と密接です。住宅ローンや保険の見直しなどが必要になりますから。地域情報も重要なんです。一度HOME’Sを使って住み替えしてもらったら、その後、少なくとも数年は引っ越ししませんから、HOME‘Sは何年も使われなくなります。ところが、地域情報を見るために継続して当社のサイトを使っていただければ、次に引っ越しする時もHOME’Sを使ってもらえます。

楽天との独占的な提携がメリットを生んだ

尾崎: 御社は楽天の持ち分法適用会社(子会社に準じる資本関係がある会社)になっていますね。楽天は自分で不動産サービスをやりたいんでしょうけど、自社開発より御社との提携を選択しています。現在、楽天は資本力を生かして物流、ビッグデータへの投資を行い、様々なイーコマース企業との提携を積極的に進めています。御社にとって楽天との提携のメリットは何ですか?

井上: 「楽天不動産」というサービスがありますが、あれは我々が裏方となって情報提供しています。「楽天スーパーセール」で「家も半額」というCMをやりましたが、それも我々が絡んでいます。また、住み替える時に新しい家具が必要になるので、HOME’Sで引越し先を探しているお客さんに楽天のインテリアコーナーを紹介しています。さらに、住宅ローンや家賃決算銀行が必要だろうと、楽天銀行にもうちのお客さんを紹介しています。逆に、不動産関連商品の買い物をしたお客さんを先方からも紹介してもらっているのです。

尾崎: 楽天はモール型のサイトですから、競合するスーパーマーケット型のアマゾンと違って、御社としても組みやすいでしょうね。

井上: 2002年頃、大手サイトのうち、ヤフーと楽天どちらと組むべきかを社内で議論しました。ヤフーとは一度提携したが上手く行かず提携解消したという過去があるので、その後は楽天と独占的な契約を結んでいます。

尾崎: アジア市場についてお聞きしますが、日本の不動産市場とはかなり違うと思います。どんな感じですか?

井上: 今、タイ、インドネシア、台湾の3ヶ国に進出していますが、一言でいうと難しい市場ですね。粛々とビジネスを継続していますが、まだ爆発力はありません。ただ、アジアの30億人の住み替えニーズは、とてつもない市場です。各国のGDP、ネット普及率、不動産市場をみて進出先を決めていますが、3ヶ国以外にインド、ベトナム、フィリピン、マレーシアなどが有望でしょうね。

尾崎: どこのビジネスが一番早く展開しそうですか?

井上: 今のところインドネシアですね。経済成長率が高く、不動産市場が活況です。また、日本から見れば旧式ですけが、モバイルネットワークの環境が結構整っており、フェイスブックも普通に使われています。早く市場が成長する条件が整っていますね。

尾崎: 国によって商習慣が違うといっても、不動産の仕組みは各国ほぼ同じですから、日本と同じニーズが必ずあるでしょうね。こういう市場はヒットした時の伸びが相当大きそうです。今、インドネシアやタイでは富裕層が中心に家を買っていても、平均所得が増えれば、高度成長期の日本みたいに家を買いたい人が一気に増えるでしょうし。

現在、不動産イーコマースのテクノロジーや市場の仕組みに大きな変化が見られますか?

井上: キーワードは「ビッグデータ」「パーソナライズドサービス」「レコメンデーションエンジン」だと思います。ネット業界が皆、これらのキーワードに注目していますし、ここで先行した者が勝つという雰囲気がありますね。
 ビッグデータは「通常のデータ管理ツールでは取り扱えないほど巨大なデータの集まり」を指します。気象、遺伝子、検索データなどが該当し、総てのIT企業がこれから新しい市場を開拓するために必須と考え、盛んに注力しています。パーソナライズドサービスは「一般的な情報提供ではなく、ユーザーの個別ニーズに合わせて情報提供を行うこと」を意味し、汎用的なサービスではなく、ユーザー個々人に合わせたサービスを提供することを意味します。レコメンデーションエンジンは「顧客の過去の購買データを活用して顧客におすすめ商品やサービスを表示する機能」です。パーソナライズドサービスから一歩進んで、積極的に商品やサービスを勧めて、潜在的な需要を掘り起こすことです。

今後のキーワードは「パーソナライズドサービス」

尾崎: 井上さんもおっしゃるように多くの会社がこれら3ポイントに注目していますが、このためにR&Dにどこまでお金を使えるかということが重要です。

井上: データベースに関して言えば、比較的は集め易くなっています。我々はこれからの競争の決め手はレコメンデーションエンジンだと思っています。東大発の産学連携ベンチャーのリッテルという会社を買収して、同社が開発したレコメンデーションエンジンのサイトへの実装を進めてもらっています。

尾崎: レコメンデーションエンジンの重要性に気づいている会社は多いでしょうけど、どの会社がどの程度力を入れているかは、なかなか窺い知れないですね。

井上:「協調フィルタリング」と言われるやり方は、例えば、アマゾンのサイトでこの本をチェックしている人は、類似の本もチェックしているという比較的単純な技術ですね。ところが、サイトユーザーがマウスを実際にどのように動かしたかを読み取ると、かなり奥深いことが分かります。テキストを全部読み終えたのか、マウスのスクロールをページのどの位置まで行ったのか、ログデータからテキストのどの部分を熟読したのか見当をつけることができます。
 そういった情報をすべて合わせてみると、マンションや住宅購入に興味はあるけど躊躇しているのか、他のサイトを渡り歩いているのかといった詳しい個人特性が分かります。その情報を使って個人特性に合わせた物件を勧められるし、人によっては物件よりも予算やローンの組み方といった金融知識を提供した方が良い場合があります。これが本当のレコメンデーションだと思います、我々はこのような機能に「コンシェルジュサービス」という名称を付けています。ただ、ここまでいくと人工知能に近いものが必要なので、相当ハードルが高いです。したがって、協調フィルタリングと人工知能との中間的なものを作ろうというのが今の段階ですね。

尾崎: 総てをてんこ盛りしたサービスは一見素晴らしいですが、作るのにお金と時間がかかるし、必ずしもユーザーが歓迎するとは限りません。したがって、どのようなサービスが消費者ニーズに合うのか見極めて、予算の範囲内で適切な商品開発を行うことが競争のカギになりますね。

井上: 競争のスピードがどんどん上がってきているので、「とにかくやってみる」ということが大切だと思います。楽天も技術研究所で開発しているようですが、たまに共同研究もします。

尾崎: 楽天は資本力もあるし、かなり大掛かりに行っているようですね。ただ、業務範囲が広いから、重点分野を絞るのが大変だと思います。

井上: そうでしょうね。レコメンデーションエンジンのどのようなコア技術が人間の感性にフィットするのか、現状皆分かっていません。ただ、コア技術が何かを見定めたところは、不動産、書籍、旅行、転職、出会いといったサービスの種類にかかわらず、人と人(物)をマッチングさせる精度が飛躍的に上がるはずです。したがって、皆がコア技術を作ることに血眼になっているのです。
 今、地球の隅々までインターネットが普及して情報爆発が起こっていますが、有り余った情報の海から自分が必要な情報を探せなくなっています。パーソナライズドサービスがカギになることは間違いありません。

尾崎: どうもありがとうございました。

 ゼロから創業して、約15年で全国の不動産情報の大半を網羅するようになった井上さんの努力には敬服するものがあります。今後は、不動産の情報サイトとして稼働率と利便性を高めること(「タテへの拡張」)と、不動産以外の生活情報の提供を拡充すること(「ヨコへの拡張」)の両戦略を追求することが成長に欠かせなくなります。そうなると、他不動産情報サイトとの競合だけでなく、様々な生活情報サイトとの競合が生じ、ライバルを淘汰すること、ライバルとの資本提携などの選択肢が考えられます。ビッグデータへの投資を行う井上さんにとって、経営の転機が訪れているように思われます。

井上高志(いのうえたかし)/1968年神奈川県生まれ。青山学院大学経済学部卒業後、リクルートグループに入社。1997年ネクスト設立、2006年東証マザーズ上場、2010年3月東証第一部に市場変更。2012年からアジア各国でもビジネス展開。

Copyright©2013 Hiroyuki Ozaki. All Rights Reserved.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

(Spamcheck Enabled)