「俺は絶対にこれを続ける!」という揺るぎない信念を社員に見せ続けてきた/ネクスト社長 井上高志(2)

投稿日2013/09/05

俺は絶対にこれを続ける!」という揺るぎない信念を社員に見せ続けてきた/ネクスト社長 井上高志(2

 日本全国で400万件以上の不動産物件情報を掲載する「HOME`S」を運営する株式会社ネクストですが、前回語ってもらったように、創業後、四苦八苦した時期が長かったようです。2002年は加盟店数が伸び悩み、インバウンドの営業手法を導入して乗り切りました。そして、2011年から12年にかけてはビジネスモデルの変更に際して誤算が続いたそうです。

顧客をグループ分けして特性にあわせて対応する

井上: 3~4年前にビジネスモデルを大幅に変更したのですが、結構想定外のことがおきて、修正するのに苦労しました。

尾崎: 具体的にはどのようなことですか?

井上: 日本全体で空室・空家は約500万件ありますが、我々は空室情報を100%網羅することを目指しています。当社が「不動産情報のインフラ」になるためには、網羅率は100%に近付くことが理想なのです。当初、物件情報を掲載した分だけ会員企業(物件を掲載する不動産会社)から料金をいただく「掲載課金型モデル」でしたが、次第にこのモデルが物件数増加のネックになりました。何故なら、不動産会社が持っている物件を総て掲載すると、その分料金が高くなるので、一部の物件しか掲載しないからです。これでは、サイトのユーザーに対して、「我々は500万件の物件情報がありますよ」という看板を出せなくなります。そこで、掲載物件をみたユーザーがフォームや電話で問い合わせした時に課金する「問合せ課金型」に変更し、「問合せがなければ料金はかからないので全部載せた方がいいですよ」というご案内を会員企業に行ったんです。

尾崎: 持っている物件を選別せずに、「全部載せた方がお得ですよ」というマーケティングに変えたわけですね?

井上: そうです。「問合せがあったときだけお金を払ってください」という方法に変えて、ピーク時で430万件まで物件数を増やすことができました。ネットで不動産情報を調べる場合、ユーザーは物件情報が豊富であることを最も重視します。したがって、プロモーション上効果がある「物件数No.1」にこだわったんです。物件数No.1ということを知ってもらうために、広告宣伝費を売り上げの3分の1まで増やしました。同時に、サイトのリニューアルと営業組織の改編を行いました。

尾崎: 物件数が増えるとユーザーは自分の欲しい情報を見つけづらくなりますから、サイトをリニューアルしなければなりませんよね。また、情報が表示されるのに時間がかかるとユーザーがストレスを感じるので、サーバーも良いものに変えなければなりません。

井上: 我々のサイトにとって、10年ぶりのフルモデルチェンジでした。分譲サイト、賃貸サイト、中古売買サイトなど、部分最適化されたサイト群を、サービスを止めないまま一つの「HOME’S」に統合するというかなりチャレンジングなリニューアルを行ったんです。これに失敗するとSEO(検索結果上位に表示される対策を打つこと)効果がぐっと下がりかねませんでした。

尾崎: 複数のサイトを統合する過程で、Yahoo!やGoogleなどの検索エンジンから、元のサイトと違う新しいサイトとして認識されるリスクがありますよね。今まで苦労してサイトの知名度を高めて、良かれと思ってリニューアルしたばっかりに、検索エンジンに全く引っかからなくなる事例がありますから。そうなると、御社にとって大打撃ですね。

井上: そうですね。もしリニューアルが失敗したら元のサイトに戻す、切り返し作業の準備もしていました。ただ、リニューアルに失敗すると検索エンジン経由のユーザー数が八掛けになり、切り返し作業で、ユーザー数がさらに八掛けになり、往復で64%まで下落してしまいます。経営上、相当のリスクでした。

尾崎: 営業組織の改編はどのようなものでしたか?

井上: 具体的には、会員企業の属性によりアプローチの方法を見直しました。例えば、地方エリアなどで単価の低い企業に対しては、一人の営業スタッフが最大500店舗もフォローします。そうなると、訪問型営業では無理なのでコールセンターがフォローし、逆に、単価が高い企業に対しては、コンサルティング的対応をするように変えました。顧客をグループ分けして特性に合わせて対応し、顧客ごとに最適なフォロー体制を構築することにしたのです。

 小さな営業組織は概して「各自の裁量」を多めに認めた方がうまく行きますが、組織が大きくなると途端に機能しなくなります。一見緻密な組織だけど内実はそうでもなく、改善しようにも現場が忙し過ぎてできない企業は珍しくありません。井上さんはトップダウンにより緻密な組織改善を図ります。

社長自ら事業本部長を兼任し、最終決済に乗りだして

尾崎: それまでは部門長のやり方に任せて、あまりメリハリを付けずに営業をしていたんですか?

井上: 賃貸マーケット、分譲マーケットなどという大まかな分類はしていました。各事業部長が統括していましたが、営業スタッフの時間の使い方までは組織的な指示をせず、個別の対応に任せていました。例えば、あなたは業務時間の30%で大口顧客のコンサルティングをしなさい、残り70%の時間で、その他顧客をフォローしなさいという大まかな指導をして、後は各営業スタッフの裁量に任せていたんです。しかし、顧客数が増えたので、この方法だと回らなくなって来ました。

尾崎: 特に、70%の時間でフォローするべき「その他顧客」に手が回らなくなりそうですね。

井上: そこで、組織を組み換え、各営業スタッフの仕事のやり方とシステムを変更しました。同時に、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング: 企業の売上・利益目標を達成するために、既存の業務フロー、組織構造などを全面的に見直し、再設計すること)を徹底的にやりました。

尾崎: 忙しい営業マンたちはなかなか仕事の効率化を自分ではできません。御社は社長のトップダウンで指示したので、スパッと変えられたんでしょうか。

井上: それは大きな要因だったと思います。それまで、私から現場に対して人員配置、評価方法、KPI(Key Performance Indicator:組織や個人が目標を達成するため、プロセスが順調に進んでいるかを点検する指標)について指示していましたが、現場マネージャーレベルまで私の意図を十分に理解していたわけではなかったようです。2012年に業績が危機的状況になりましたので、私が事業本部長を兼務して情報を集約させ、営業戦略についても最終決済しました。
 その後、会社の雰囲気が変わりました。今まで何となく各人にやらせていたのに、いきなり一人一人にスットップウォッチを持たせて、「今までの5分間何をしたか」、「過去30分間は何をしたか」という具合に1ヶ月間総て記録を取らせました。それを分析して行動パターンを割り出し、問題を解消していきました。結構、科学的にやったんですよ。

尾崎: そういう調査を大手のコンサルティング企業に依頼すると、何億円もチャージされるかもしれませんね。調査の前にコンサル企業に御社の業務フローを教えるだけで数ヶ月かかりますし。御社の場合、総て自前でやられたということですが、自前で調査するにしても社員の負担が大きいですから、きちっと意図を説明しないといけませんね。

井上: そうです。現場はブーブー文句言っていましたけど。調査を進めて分かったのは、営業スタッフが実際に商談に使っていた時間は、私の予想の半分しかなかったことです。「頑張ってお客さんのところに通っています」と言う営業マンの時間配分を調査すると、実際にお客さんと会って話をしている時間は全体の1割程度しかない。「残り9割の時間は何やっているんだよ」と言いたくなりますよね。そこで、「商談時間を2倍にしないとダメだ。それができるよう詳細に自分の行動をチェックしなさい」と指示しました。

尾崎: 虚偽申告する人も多いでしょうから、正しい情報を集めるのには苦労しませんでしたか?

井上: 多少はありました。ただ、全員のデータを取っていたので、統計情報と比較して矛盾がある場合は、現場マネージャーに特殊な要因があったのか聞いて確かめることができました。売り上げが下がった時に営業戦略を作り変えましたが、当然現場の士気が下がっているし、社員は新戦略が正しいのか疑心暗鬼だったと思います。売上が下がり気味といっても、その前は利益が毎年60%も増えて一気に駆け上がってきたので、社員たちは「俺たちすごい」と勘違いしていたんですよね。

尾崎: 「今は低調だけど、その内また良くなるはずだ」と皆、思っていたのでしょうね。また、個人の売上と会社全体の売上との間でイメージが違ったかもしれません。

井上: 社員は「この延長線上で俺たちは突き抜けられる」と思っていたのでしょうが、経営者目線では無理なことが分かっていました。

料金プランを「掲載課金型」から「問合せ課金型」へ

尾崎: この士気低下をどうやって支えたんですか?

井上: 現状を正確に把握して、皆に丁寧に説明しました。また、組織対応を広範に行って、営業スタッフを孤立させないよう配慮しました。
 まず、事業本部長就任後、自分で社内外の情報収集を行いました。現場のメンバーやクライアントが現状をどう思っているか、上司が部下をどう思っているかヒヤリングをかけました。また、営業スタッフたちとミーティングし、顧客訪問にも同行しました。
 この時期、経営として大誤算だったのが、会員企業(不動産会社)が1500店も減った事です。当然、売り上げも大打撃でした。この状況が起きた原因はやや複雑でした。料金プランの変更がかなり関係していたのです。

尾崎: 掲載数に応じて課金する「掲載課金型」から、サイトユーザーの問い合わせ数に応じて課金する「問合せ課金型」への変更ですね。

井上: 「問合せ課金型」であれば、実際にユーザーから問い合わせがあった時だけ課金しますので、オフシーズンや地方エリアでは比較的料金は少なくなり会員企業間の不公平は解消されます。この意図は丁寧に説明すれば顧客に理解していただけると思っていたのですが、会員企業の解約数を見ると、我々の意図は十分に伝わっていなかったようです。

尾崎: サイト掲載料金、問合せ数、実際の成約数を比較して、不満を感じていたお客さんがいたのでしょうけど、「不満だ」と思うと、冷静に説明を聞いてくれなくなるでしょうね。

井上: 料金プラン変更の意図を丁寧に説明すれば良いのですが、不満が嵩じて感情的になっている顧客はなかなか聞いてくれません。「当社はお客さんにとって公平な料金改定をするのだから、契約を続けてもらうよう頑張って説得しなさい」と、営業スタッフを励ましましたが、思いのほか逆風が強かったです。
 その時、リクルートの競合サイト「SUUMO」がものすごいプロモーション攻勢をしかけており、その影響もありました。お客さんからは時には激しくクレームをつけられ、頑張って説得しても解約が続くという四面楚歌になり、営業スタッフは「ウチの会社大丈夫なのか」という不安を感じたと思います。

尾崎: 逆風が吹いて自信がなくなると、多少路線を変更し、工夫を加えざるを得なくなりますよね。

井上: そこで、加盟店の不満を丁寧に拾って、個別に微調整を行いました。問合せ数に応じて課金する料金プランだと値上げになってしまう不動産会社には、個別の営業対応をしました。また、地方エリア等で、もともと問合せ数が少ない不動産会社には、要望に応じて少額固定プランも追加しました。

尾崎: ただ、営業成果が出るまでは苦しい時期が続いたと思います。

井上: 疑心暗鬼になってしまう営業スタッフがいましたが、その時にこの戦略を絶対に変えないと宣言しました。それ相応の分析をして決めた事だし、不動産情報のインフラ企業になるためにも必要なことでした。でも社員が自信を持たないとだめなので、何度も社内で説明しました。よく質問されたのが、「元の掲載課金型に戻さないんですか?」ということです。利益率が半分にまで落ちると、マネージャーや役員にまで悲壮感が漂いましたが、「絶対俺はこれを続けるんだ」という揺るぎない信念を見せ続けました。

尾崎: 会社が苦しい時ほど社員は社長の顔色を見ますから、井上さんが「俺が絶対これをやる!」と言い続けることが必要だったと思います。ただ、疑心暗鬼の社員や顧客の反論のうち、どういうものが一番手強かったですか?

井上: 反論ではなく感情による主張が一番手強かったです。「実質値上げじゃないのか」という指摘をいただきました。賃貸の料金プラン変更の目的は、既に説明した通り物件数の増加や顧客間の不公平是正だったんですけど、売買分野では実質値上げになる側面がありました。いままでが安すぎましたから。この点、丁寧に説明しなければなりません。「値上げですが、他社と比べてこの値段は妥当だと思います」としっかり説明するよう営業スタッフに指示しました。

ネガティブキャンペーンには組織的対応で跳ね返すべきだ

尾崎: 感情的な反発が和らいだのは、どういうことがキッカケでしたか?自分は不満を持っても、周りの不動産会社が新料金プランを受け容れ始めたからでしょうか?

井上: 多少、プロパガンダ的な手法ですが、営業スタッフに顧客のポジティブな意見を集めさせて、それを冊子にして会報誌と一緒に加盟店に送りました。お客さんに繰り返し情報発信をすることによって、納得してくれる人を増やしたんです。ただ、こういう場合、数は少なくてもネガティブな意見があれば、その影響力が大きいですよね。しかし、新しい料金プランによって以前より利益が増えたお客さんが出てくると、「意外にこのプランは良いんじゃないか」となってくるし、一度解約したお客さんからも、「前より良くなった」という声が出てきたんです。不動産業界は噂が横に広まりやすいので、A社の業績が良くなれば、解約していたB社もC社も我々のところに戻ってくるという現象が起きるんですね。

尾崎: 不動産業は地域特性が強いですから、近隣のライバル会社が儲かっているか、どんな物件を取り扱っているか、興味津々だと思います。

井上: 想定外だったのが、ネガティブな声が非常に強かったことです。かなり早急に対応してなんとかしましたが、加盟店数の純増をプラスにし、ユーザーからの物件問い合わせ数が増え出すまでが大変でした。そこまで行けば、お客さんの感情的な反発は和らいで、顧客も社員も「新戦略は正しかった」と認識してくれるようになりました。この三年間の足踏みは我々にとって必要なプロセスだったと思いますが、もう少しネガティブな想定をしていれば、売上低下を抑えられたかもしれないですね。

尾崎: ネガティブな情報の広がりが想定より早かったということですね。

井上: そうですね。社内の動揺も大きかったですが、理論で割り切れない人の感情を変えるのは難しいと痛感しました。社員やお客さんの感情をポジティブに持っていく方法を周到にやっておけばよかったと思いますね。外部からネガティブな反応が起こった時、個々の営業スタッフに対応を任せてしまったのが失敗だったと思います。こういう場合、組織的なプロパガンダで跳ね返すべきで、営業スタッフ個人では対抗できないですね。広告費を使いながらイメージを組織的に変えなければらないことがよく分かりました。

尾崎: 個々の営業マンに任せることも大事ですが、どこまで組織対応するかの兼ね合いに正解はないですよね。組織対応をやり過ぎると、営業マンが自分の頭で考えなくなりますから。しかし、ネガティブキャンペーンには組織対応が想定以上に必要だったということが分かりました。

 次回は、不動産情報インフラとして一定の存在感を築きつつある現在、ネクストの将来像をどのように描いているかをお聞きしました。


井上高志(いのうえたかし)/1968年神奈川県生まれ。青山学院大学経済学部卒業後、リクルートグループに入社。1997年ネクスト設立、2006年東証マザーズ上場、2010年3月東証第一部に市場変更。2012年からアジア各国でもビジネス展開。

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