従業員のメンタルヘルスケアは早期対応が重要です:アドバンテッジリスクマネジメント鳥越慎二社長(1)

投稿日2013/07/31

従業員のメンタルヘルスケアは早期対応が重要です:アドバンテッジリスクマネジメント鳥越慎二社長(1

 2013年6月、株式会社アドバンテッジリスクマネジメントの本社(中目黒)を訪問し、社長の鳥越慎二さんとお会いしました。同社は、企業に対して従業員のメンタルの問題(うつ病など)を解決、予防するサービスを提供しています。従業員のメンタルヘルスは深刻な社会問題となっていますが、同社はこの業務を専業としている唯一の上場企業です。鳥越さんには私の大学講義でゲスト講師をお願いしたこともあります。

早期対応が本質的な改善につながる

尾崎: こんにちは。御社のサービスは最近、様々な企業に浸透しているようですね。とはいえ、どの企業にも同じように御社のサービスを歓迎されるとは思えません。どのような会社に導入するとうまく行くものですか?

鳥越: うまく行った例として、大手メーカーのケースがあります。そのメーカーの素晴らしかったところは、メンタルの病気を治療するためには「早期対応が重要」なことを理解していいただいた点です。病気の予備軍を早い段階で表面化させることが、本質的な改善につながるわけです。

尾崎: トラブルを抱えた従業員を早目に休ませることを実行した企業がうまく行ったということですね。

鳥越: その通りです。また、メンタルヘルスケアで求められる効果は「休職者数」が減ることです。ただ、休職者数というのは、問題を正確に表現しておらず、「総休職日数」(ひとりあたり休職日数x休職者数)を見るべきです。例えば10日間休む人が10人いる場合と、1年間休む人がひとりいる場合を比べると、前者の休職者数は後者の10倍ですが、前者の総休職日数(100人・日)は後者(365人・日)の3分の1以下です。つまり、休職者数だけを見ても、実態は分からないのです。

尾崎: 休職者数だけに注目すると、事態が悪くなったように見えますね。そのメーカーは、この関係を理解したんでしょうけど、メンタルヘルスケアをやること自体への反対意見が顧客側から出ることもあるでしょうね。

鳥越: そういう意見をいただいたことがあります。しかし、休ませないようにすると、逆に長く休んでしまうわけです。企業にとっては、ひとりあたりの休職日数を抑えれば、人数が増えても、全体のコストが少なくなるわけですから。
 少し細かい話ですが、総休職日数は、メンタルヘルスケア導入後3年目から下がりましたが、最初の2年間は休職者数(筆者注:総休職日数ではない)が逆に増えたんです。これは、導入後、上司が調子の悪い部下を早めに休ませるようになったためです。メンタルの問題は、ぎりぎりまで引っ張って、体調がすごく悪くなるまで休まないから病気が長期化します。したがって、当初、休職者数が増えたのは正しい措置が取られた証拠です。まず、休職者数が増え、徐々に平均休職日数が減り、復職率が高まるというプロセスを辿りました。そして、3年目になると肝心の総休職日数も減り始めたのです。

尾崎: 企業にとっての具体的なコスト削減効果はどのようなものですか?

鳥越: 従業員が休職している間、会社にかかるコストを計算して、我々のサービス料と比較すると、総休職日数が減ることによって約3倍のコスト削減効果があったのです。しかも、この計算にはグループ長や人事部が休職に対応する管理コストが含まれていませんでした。つまり、休職を穴埋めする直接経費だけを見ても、3倍のリターンがあったのです。

尾崎: 休職者が出た場合、穴埋めのために直接経費だけでなく、現場や管理部門が混乱を収束させるために支払う間接的経費もかなり大きいですよね。

鳥越: 休職発生に伴う直接的経費に比べて、間接的経費を加えた総コストは更に倍程度はあると試算しています。同社には非常に投資効果が高いと評価していただきました。
 予防が大事といっても、事後対応や緊急措置も重要です。ただ、事後対応ばかりだと自転車操業になりかねません。だから、根本原因を治さなければならない。理想的な対処は、現に休んでいる人のケアから始め、これじゃいかんと早期発見につなげ、これでもまだ不十分だと、健康な人のメンタルを強くすることに進む感じですね。事前対応をしても病気はゼロになりませんが、費用対効果は確実に高まります。

企業文化がメンタルを左右する

尾崎: メンタルヘルスケアが効くかどうかに、実施する企業の体質や企業文化が関係していますか?

鳥越: 結構関係ありますよ。昔ながらの日本企業で、家族主義的、年功序列、人間関係が濃密な企業の中には、メンタルの問題が比較的少ないケースがあります。入社したら一生勤めて、上司や同僚と一緒の社員寮に住んで、奥さん、子供もよく知っているような企業では、問題が減る傾向があります。上司と部下の間で、メンタルのカウンセリングがいつの間にか行われていることが影響しているのかもしれません。上司と部下が酒を飲みに行って、部下が上司に仕事、プライベートの悩みを相談できますから。
 このような事例においては、年功序列的な風土も影響しているとも思われます。部長や課長から見れば、新入社員は自分の10年~15年前ですから、悩みがよく分かるわけです。部下にとっても、上司は仕事・生活の悩みを既に経験しているので、相談しやすい。加えて、上司は、酒を飲みながら、「人生はそもそもなんのためにあるんだ」という人生訓も話したりする。物事の考え方や価値観を伝えることで、ストレスへの対処方法に関しても上から下への伝承が行われているわけです。

尾崎: 若者が嫌がる上司との飲み会は、実は、嫌がる若者にとって有益な機会なのですね。ところで、中小企業のメンタルヘルスケアの導入率は非常に低いようですが、昔ながらの体質の日本企業が多いので、そもそも外部からのケアの必要がないということですか。

鳥越: いろいろな企業がありますので、一概には言えませんが、そういう企業もあるかもしれません。ただ、今は企業経営手法が変わりつつあり、中小企業の間でも、「日本的な」企業は少なくなっています。会社の規模に関わらず、上司、部下で飲みに行くことが減りました。また、上司が外資系から転職してきた人で、部下は「たたき上げで5年目」では、お互い共通の価値観がなかなか見いだせないでしょう。ライフスタイルの多様化で、上司が独身の為、部下は子育ての悩みを上司に相談してもしようがないケースもあるでしょう。社員同士の交流が減り、学びも少なくなることで、ストレス対処への伝承が減ってきているのだと思います。

尾崎: 家族的な年功序列的な企業以外に、メンタルの問題が発生しにくいのは、どのような企業ですか?

鳥越: 組織の環境以外に、職種が影響していることが考えられます。例えば、「ホワイトカラー」と呼ばれる職種では、メンタル問題が比較的発生しやすいようです。ホワイトカラーの仕事は、勤務時間外にも仕事のことを考え続けるなど、勤務時間が終了すれば業務も終わる職種に比べ、仕事のオンとオフを切り替えづらいと思います。

ストレスの感じ方は「認知と行動のパターン」によって違う

尾崎: メンタルの問題が多い業界はどんなところがありますか。

鳥越: 典型はIT業界です。まず、不定期的な就労時間が原因の一つだと思われます。睡眠とストレスには相関があって、睡眠時間が不定期だとメンタル面の問題につながりやすい。また、ひとつの事に集中、没頭する仕事も、メンタル面の問題につながる可能性があります。研究所などでも、問題が見受けられます。
 また、コンサルティングやITの仕事では、「仕事の期限」もストレスを増やしていると思われます。「もう締め切りに間に合わない」という状況をギリギリで切り抜けたと思ったら、すぐ次の仕事の締め切りが迫る。こういった環境もメンタルヘルスには良くないと思います。

尾崎: そういう仕事をしている人の予防は、同時に組織的な対処が必要ですね。ところで、私は以前、米国の投資銀行に勤務していましたが、今、鳥越さんが指摘される要因をすべて備えた最悪の職場環境でした。ところが、うつになった例をほとんど聞いたことがありません。

鳥越: いろいろな理由があると思いますが、一つ考えられるのは、そもそも人によってストレスの感じ方は違うということです。「ストレス」は客観的には存在しておらず、自分で作りだしているものです。外にある刺激は同じだが、刺激をどう捉え、考え、何をするかでストレスは生まれるわけです。だから、大変な仕事を与えられた時、「これは良いチャンスだ」と思いモチベーションが高まって、頑張って成し遂げる人もいれば、「これは無理だと」思ってすごく負担感とストレスが高まり、結果、うつになる人もいるわけです。この「認知と対処行動のパターン」によってストレスの感じ方が違うわけです。

尾崎さんの勤められていた投資銀行でメンタルの問題が少なかったのは、ストレスに強いタイプの人が集まっていることが原因だったのかもしれません。

企業経営にとってメンタルの病気は大きなリスクである

尾崎: 今ではかなり実績を積まれてきているので、顧客の理解も進んでいると思いますが、サービスを始められた当初は、なかなか業務内容を理解されなかったと思います。どのように顧客を開拓されましたか?

鳥越: 我々のビジネスをまず理解してくれたのが、人事部の現場にいらっしゃる方々です。日々、メンタルの問題を抱えた従業員の方への対応に追われている人事部の皆さんはニーズを強く感じている。それに対して、現場から遠い経営陣には、実感がないというケースがままありました。
 経営層の方々は、メンタル的に強い場合がほとんどで、「ストレスなどと言う奴は甘えている。俺の若いころは・・」と内心思っている人が多い。だから、うつ病の人たちが怠け者に見えて、「彼らのために金を使うのではなくクビにしろ」というのが本音という人が少なくない。世の中変わって、そうもいかないことは分かっていても、お金をかけて本気でやる経営者が大勢だとは言えません。

尾崎: うつによる休業者がこれだけ増えているのに、いまだにそうですか?

鳥越: そうですね。未だに、「本音は違う」経営者が少なくないと思います。とはいっても、毎年「10人休んでいます、15人休んでいます、新入社員が研修中にうつ病で2人休みました」という報告があがってくると、さすがに社長も「なんとかしなくちゃいかん」となります。また、「うつ=怠け者」という考え方が一般的に変わっていることも影響しているでしょう。

尾崎: 「うつ=怠け者」でなくなってきたキッカケは何でしょうか。

鳥越: 企業にとって深刻なのは、実際にうつ病を原因とした自殺などで労災認定や裁判が起きたことです。最近では「上司がこんなこと言ったから部下がうつになった」と、上司個人も訴えられるケースも出てます。こうなると、社長の本音と関係なく、メンタルの病気が企業経営にとって大きなリスクとなります。
 一方、厚生労働省が企業のメンタル問題対策の様々な指針を出しており、最近ではメンタルチェックを企業に義務付ける動きもあります。今、身体的な健康診断は義務化されていますが、メンタルチェックは義務ではありません。それが、労働安全衛生法の改正という形で、義務化が議論されており、経営者も真剣にならざるを得ないのです。

尾崎: 現状は厚労省の指針に過ぎないので、真剣にやっていない企業もあるんでしょうね。

鳥越: 大企業に「メンタルヘルス対策を行っていますか?」と聞けば、100%「やっている」と答えるでしょう。ただ、やっている内容は、研修を年に何回か行い、相談窓口を一応設定していますといったケースが多いです。しかし、形だけの研修や、社内でも知られていない相談窓口では効果を期待できません。「メンタル対策を行い効果が出ている」と認識している企業も少ないはずです。また、従業員300人以下の中小零細企業では実質的には7割くらいは何も実施していないと言えます。

尾崎: 社内に相談窓口をつくるより、社風を年功序列の体育会系に戻したほうが、効果が出そうですね。

鳥越: 解決策は複数の施策のミックスだと思います。どんな組織でも、ある一定割合でうつ病は発生するんですね。ですから、事後対応とうつ病発生率を下げる努力の両方が必要です。企業側は社内の雰囲気を改善して従業員のタフネスを高め、悪いストレスをなくし、気軽に相談できたり、病気が悪化しない為のカウンセリング体制を作ることが必要です。

 ひとくちに従業員のメンタル問題といっても、多くの側面があり、解決策は多様なことをお聞きしました。次回は、メンタルヘルスケアという日本で前例がないベンチャーを、鳥越さんはどのようなハードルを乗り越えて軌道に乗せたかをお聞きします。


鳥越慎二(とりごえしんじ)/1962年、新潟県 生まれ。東京大学経済学部卒業、ノースウエスタン大学MBA。米ベイン・アンド・カンパニー勤務後、アドバンテッジパートナーズに参画。1999年、アドバンテッジリスクマネジメントを設立し、2006年、大証ヘラクレス(現JASDAQ)に上場。

Copyright©2013 Hiroyuki Ozaki. All Rights Reserved.


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