医薬品販売の顧客ニーズはビッグデータだけでは対応できない!:ゲスト ケンコーコム後藤玄利社長 その3

投稿日2013/07/16

医薬品販売の顧客ニーズはビッグデータだけでは対応できない!:ゲスト ケンコーコム後藤玄利社長 その3

第二回に書いたとおり2000年のITバブル崩壊時、資金ショートを起こしかけたケンコーコムですが、大前研一さんの会社から出資を受けて、取り敢えず運転資金の目途をつけることができました。ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けても、会社は黒字体質に変えなければ、持続できません。そこで、他の企業との提携によって自社の地盤を固めることが経営者の仕事になります。

リードインベスターの存在の大きさ

尾崎: 前回、後藤さんがイーコマースを始めた直後、資金繰りに苦労された話をお聞きしました。大前研一さんから出資を受けた経緯を教えてください。

後藤: VC回りをしていた時、たまたま、大前研一さんがネットビジネスのインキュベーションを始めたと聞きました。実務を担当していた上田谷さん(元ブーズアレン)をよく知っていたので、相談しました。すると、「大前さんはイーコマースに将来性があると信じているので、プレゼンした方が良いよ」と言われ、大前さんに事業計画を説明して、結局、2,000万円出資してもらいました。この金額は運転資金にしかなりませんでしたが、おかげで倒産せずに済み、「大前さんが出資するのなら我々も」と他のVCや事業会社が手を挙げてくれました。

尾崎: 「リードインベスター(この場合は大前氏)がいれば我々も投資しますよ」というVCは多いですよね。大前さんの出資後に手を挙げた企業は何社でしたか?

後藤:オムロンと日本ベンチャーキャピタルの二社でした。

尾崎: オムロンはハード機器に強い会社ですから、後藤さんの会社に出資したとは意外な印象を受けますね。

後藤: オムロンは健康をテーマにした商品作りをしていますが、血圧計や体脂肪計といったハードだけなく、ハードとソフトを合わせてソリューションを作りたいという希望を当時持っていて、ソフト分野を開拓する時のパートナーを探していたようです。

尾崎: 健康分野に限らず、「自分はハード屋だ」「ソフト屋だ」と言っていたのでは、変化に対応できなくなっていますしね。

独自路線を進みつつ、楽天とパートナーシップを組む

尾崎: ところで、御社と楽天との関係に興味があります。現在、楽天グループから50%超の出資を受けて、パートナーとして組んでいますけど、同じイーコマースとして、そもそも楽天とはライバル関係でありませんか?

後藤: いえ、楽天はライバルではなく、協力関係にあります。我々は独自システムと楽天のプラットフォームを利用する場合の両方で売っています。それは創業時も今も変わりません。

尾崎: 楽天はショッピングモールと同様「来客数が多い」のが売りなので、中小テナントに出店してもらい、テナント料を取るビジネスモデルですね。ただ、テナント料も嵩むし、独自路線を強化する選択肢もあると思います。独自路線か、楽天の傘下か迷いどころですが、どう思いますか?

後藤: 独自路線も楽天との提携も両方やって、お客さんへのリーチを広げれば良いと思います。

尾崎: 例えば、NTTドコモは、らでぃっしゅぼーやなどのイーコマースをグループ化して、市場参入を始めています(参考)。かなり企業文化が異なる同士の提携です。御社と楽天との提携はどのように評価すれば良いですか?

後藤: 我々が健康分野のイーコマースのカテゴリーキラーとして極めようと思っても、現在、アマゾンがこの分野でも急速に台頭しています。前回、イーコマースで生き残るにはカテゴリーキラーになるべきと言いましたが、今の市場はその段階を越えて、「楽天とアマゾンとの競争」になっています。イーコマースは、物流とITに巨額投資が必要な資本集約的産業になりつつあります。アマゾンは全国に10ヶ所以上の物流センターを持つことによって倉庫と市場との距離を短くし、大都市圏ではタダで翌日配送を可能にしています。我々にはアマゾンのような投資をする力はありません。

そうするうちに、今まではショッピングモールとしての事業に専念して、テナントの物流に関知していなかった楽天が、物流に力を入れるという話を聞いたんです。

尾崎: アマゾンは巨大スーパーマーケットと一緒で、商品の仕入れ、販売を自社でやっています。これに対して、楽天はショッピングモールとしてテナント料は取るけれど、商品の仕入れと販売はテナントでご勝手にというやり方でしたよね。それが、アマゾンのように楽天も物流に力を入れると宣言したわけです。いつ頃からそうなりましたか?

後藤: 表に出たのはここ1~2年でしょうか。楽天は資本集約的企業ですが、テナントの中小イーコマースは皆、労働集約的企業です。アマゾンがさらに規模を拡大したら、労働集約的な店舗を抱えている楽天は、総合的なコスト競争で太刀打ちできなくなります。そうなる前に手を打ったのだと思います。

巨人アマゾンに挑むには・・・

尾崎: 楽天とアマゾンのコスト競争力はどの程度違うのでしょうか。

後藤: これからビッグデータを活用することが競争のカギになると思いますが、そのためには、かなりの研究開発投資をしなければなりません。うちの会社のIT投資能力を1とすると、楽天は100、アマゾンは1000ぐらいになります。

尾崎: アマゾンのグローバルの売上は6兆円超、楽天は約4,400億円ですから、それぐらいの差にはなるでしょうね。

後藤: グローバル市場はほぼアマゾンが押さえつつありますが、国内は楽天の力が強いです。しかし、ビッグデータなどIT研究開発投資となると、アマゾンが圧倒的に強いです。

尾崎: 今までは、国内市場ではアマゾンより楽天が強かったですが、これからはそうも行かなくなるでしょうね。楽天もアマゾンに負けずに物流に力を入れなければならなくなっているわけです。

後藤: ただ、物流のオペレーションとなると、日本の持ち味が生きてきます。米国の物流の質やノウハウが高度かというと、疑問です。ヤマトの宅急便のようなきめ細かさはないですから。

尾崎: 大手も含めてメーカーの話を聞くと、アマゾンはメーカーに対して高飛車な契約を押しつけてくることで有名です。「アマゾンとは契約したくない」と怒っている会社は少なくなくありません。あそこまでやると、米国でも嫌がる企業は多いようです。

後藤: アマゾンはかなり強引で、日本的でないと思います。また、アマゾンには「フリーライダー(タダ乗り)」という批判があります。日本の物流会社を酷使して、これだけ儲かっているのに、日本では税金を払っていません。米国でも税金を払っていないという批判があり、「アマゾン税」と呼ばれる売上税の新設が検討されています。これは大きなことです。

尾崎: アマゾンだけでなく、同様の問題は米国の大企業に起きています。先月、アップルのクックCEOが米国議会で証言する羽目になりました。アップルなどは世界のタックスヘイブン(租税回避地)を使い分けて、支払い法人税をほぼゼロにしているようです。税金を払わない大企業がCSR(企業の社会的責任)を説くのは片腹痛いですね。

後藤: そうですね。医薬品の訴訟問題でも、アマゾンの法務部門の人は個人的にサポートしてくれたけど、会社としてはなにもサポートしないという姿勢です。

尾崎: でも、環境が整えば、アマゾンはすぐにでも医薬品販売をやりますということでしょう?

後藤: アマゾンの利益率は、実は1%あるかないかです。したがって、売上税が導入されると大打撃です。また、彼等の戦線は広く、グローバルに色々な企業と競合関係にあります。日本では楽天と、健康分野では我が社と競合しています。さらに、電子書籍のキンドル端末を発売したので、iPadのアップルと競合し、コンテンツビジネスに参入したので、グーグルとも競合しています。

尾崎: 至るところで争いを起こしていますね。

後藤: 我々から見ればアマゾンは巨人だと言いましたが、競合相手がアップルやグーグルになると、話は別です。利益率を比べると、圧倒的にアマゾンは脆弱です。しかし、ドンキホーテのように大きな相手に闘いを挑んでおり、米国ではウォールマートという売上30兆円のスーパーともやり合っています。

尾崎: 国内を見れば「楽天対アマゾン」という構図ですが、世界を見ると凄まじい競争になっていますね。



 イーコマースのパイオニアである後藤さんがビジネスを始めた頃、この分野の規制は緩く、大資本も不要で、ベンチャー企業のイノベーションで動いていました。ただ、それは過去の話で、国内は楽天、グローバルではアマゾン、グーグル、アップルなどの巨大資本でないと太刀打ちできない市場になりつつあることが実感できます。では、今後は「ビッグデータ」が唯一のカギになるのでしょうか?私はそう思いません。何故なら、後藤さんが指摘するように、変数が多過ぎて理解が困難な市場はデータ解析能力を進めても、顧客の本当の動きは分からないからです。
 
 最近、デジタル化が極限まで進んだ機器やサービスで、顧客が逆にアナログ的要素を望む傾向が出てきつつあります。デジタル化を究極まで進めても、顧客ニーズに対応できないということです。医薬品のネット販売においても、顧客が知りたい情報をタイムリーに提供する、安全に販売するという、ビッグデータでは解決できない要素が必ず残ります。

後藤玄利(ごとうげんり)/ 1967年大分県生まれ。東京大学教養学部卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。1994年、ヘルシーネット(現ケンコーコム)を立ち上げた。

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