執念でロングテールとSEOを先取りした: ゲスト ケンコーコム後藤玄利社長(46)その2

投稿日2013/07/12

執念でロングテールとSEOを先取りした: ゲスト ケンコーコム後藤玄利社長(46)その2

 前回は厚生労働省との行政訴訟についてお聞きしましたが、ケンコーコムは日本における電子商取引(イーコマース)のパイオニアでもあります。今でもウェブマーケティングは先を見通せないツールですが、後藤さんが始めた頃のウェブマーケティングはそれこそ「海のものとも山のものともわからない」代物、苦労は並々ならぬものだったようです。

徹底的なマーケティングを一気呵成に!

尾崎: 2000年にケンコーコムを立ち上げた当初、バナー広告、メルマガにお金をかけたがうまく行かなかったようですね。今でこそバナー広告など意味がないと思われていますが、当時は「有効なツールだ」と騒がれていました。最近はソーシャルメディアが有効と言われても、わからないことが多いです。このように常に不確実なイーコマースで成果を上げるために必要なことは何ですか?

後藤: まず、効果測定をしっかりすることだと思います。我々がイーコマースを始めた当時、「こうしなさい」という教科書もなかったわけです。そういう状況でできることは綿密な効果測定しかないわけです。イーコマースの前、我々はダイレクトメールによる通信販売(通販)をしていましたが、その時のノウハウを使えば効果測定も難しくないと考えていました。
 次に、思い切りよく投資をすることが大事と考えていました。始まったばかりの市場では、カテゴリーキラー(特定分野でのリーダー)にならないと生き残れないと思い、そのために徹底的なマーケティングを一気呵成にやったんです。

尾崎: 一気呵成のマーケティングとはどのようなものでしたか?

後藤: 最初はどうすれば集客できるのか正直わかりませんでした。広告を売りたい人達が作り上げたマーケティング案が大半でしたから。そこで、通販での経験を基に大まかな計算をしました。通販では、ダイレクトメールの広告費に100払ったら、少なくとも100の売上が見込めました。イーコマースも同じようなもので、「まぁ、広告費と同じぐらいの売上は可能で、せいぜい若干の赤字で済むだろう」と考えました。そこで、思い切って月2,000万円の広告費をかけたのです。ユニクロ、クリスピードーナツでも、サイト(店)をオープンする場合、オープン直後、一気に集客しないと勝負になりませんよね。

尾崎: 映画館は封切り直後一週間の客足で、その作品を続行するか否かを決めるそうです。

後藤: ところが、蓋を開けてみたら、2,000万円の広告費に対して売上がわずか60万円しかなかったんです。大赤字で顔面蒼白になりました。途端に会社のキャッシュフローが厳しくなりました。そこで、数か月先まで決まっていた広告も頼み込んでやめ、ベンチャーキャピタル(VC)を回って資金繰りに奔走しました。たまたま、大前研一さんの会社が出資してくれて、何とかなったというわけです。

尾崎: 2,000万円の広告費に対して60万円の売り上げですか・・・ウェブマーケティングの真贋を見分けるためにどうすれば良いでしょうか?

後藤: 販売していた商品一つ一つのマーケティングの投下資本利益率(ROI)を見なければいけません。ダイレクトメールでは、プロモーションごとに綿密にROIを測定する文化がありました。その時のノウハウはイーコマースにも応用できました。

ウエブとマスマーケティングの関連性

尾崎: 日本のイーコマース市場の歴史はおよそ15年ですが、ここまで成長して、伝統的なリアル(ネット以外のビジネス)の小売やマスマーケティング(テレビ、新聞、雑誌を使ったマーケティング)を凌駕するとは正直思いませんでした。ただ、今や販売がウェブ頼みになり過ぎて、消費者の顔がよく見えなくなってきたのも事実です。そこで、ウェブとマスマーケティングを組み合わせて、今まで見えなかった消費者ニーズを掘り起こすことがテーマになっています。両者を比べて、似ている点はありますか?

後藤: ウェブマーケティングは、今にして思えば、通販とマスマーケティングの性質を兼ね備えていると思います。通販では、売り手が何らかの施策を行えば、お客さんからのレスポンスが直接返ってきます。郵送したカタログに返送してもらったり、コールセンターでお客さんの声を聞いたり、フォローアップや効果測定が行いやすいという特徴があります。
これと対極にあるのがマスマーケティングで、テレビCMで広告を打っても、お客さんがどのような反応をしたのか、直接的な因果関係がわかりづらいです。
 両者の中間にあるのがウェブマーケティングです。こちらの施策に対して、お客さんからある程度のレスポンスが来るのですが、通販みたいにこちらが思ったとおりの反応があるわけではない。

尾崎: ウェブマーケティングの黎明期、タダ同然のコストで、通販のように顧客一人一人の反応が分かると、ウェブはまるで「魔法の杖」のように宣伝されていたことを思い出します。コストが安いとはいえ、当時はお客さんの動きをフォローすることは難しかったのですね?

後藤: 広告を出すとき、お客さんがどのような広告を見て、どのような商品の購買行動につながったかの因果関係が分かるよう、細かく変数設定をしていました。その結果、広告が購買活動につながっていないことが、はっきりと分かってしまったんです。これはショックでした。

尾崎: 15年の歴史を経て、ウェブマーケティングは多少分かりやすくなりましたか?

後藤: 正直、今でもウェブの効果測定は難しいと思います。それは、ウェブで物を買うかどうか決めるのは、実に数多くの要素が関わっているからです。例えば、Aという薬をウェブで買う場合、病気の情報を見つけたサイト名、医者のアドバイス、友達の口コミ情報、製薬企業のCMなど、ウェブ以外の情報を含めて実に様々な変数があります。これを効果的に分析するには、今流行りの「ビッグデータ」(通常のデータベース、管理ツールなどで取り扱う事が困難な巨大データの集まりのこと)が必要になるのかもしれませんが、我々にとって使い勝手が良いのか、正直分かりません。ウェブは複雑系です。

 後藤さんは以前あるインタビューで、「ウェブで顧客の反応を綿密にフォローしても限界がある。そうであれば、顧客の動きを後追いするのではなく、ウェブで提供するコンテンツの質を高める方が重要だ」と述べられています。ビッグデータに頼っても今ひとつであれば、「コンテンツ重視」となるのでしょうか。

ロングテールを先取りしての実践

後藤: 初期の経験から、ウェブマーケティングのROIは低いことがわかっていました。しかし、当時からイーコマースには将来性があると確信があったので、誰かがうまくやるだろうから、自分がいち早くやりたかった。しかし、もがけばもがくほど、お金がなくなって行き、挽回しようと広告を増やせば赤字が拡大するという悪循環にはまりました。
 一方で、早く成長しないと、医薬品のカテゴリーキラーになれないというプレッシャーも感じていました。とにかく何か道があるはずだと、次々とプロモーションに取り組んでは、効果が出ないので諦めるということを繰り返しました。この「負のサイクル」から抜け出せるのだろうかと思い悩んだ時、「プロモーションがうまくいかないのに、全体の売上は伸びていること」に気がついたのです。商品数のグラフと月次売上のグラフを見比べていると、両者に相関がありました。商品数に10,000をかけるとほぼ月商に等しかったのです。それなら、
 広告をやめて、商品数を増やそうということになりました。この相関関係を他社よりも早く見つけたことで、カテゴリーのなかで頭ひとつ抜けることができたと思います。

尾崎: 他のカテゴリーでも同様のことが起きていたのですか?

後藤: はい。これこそが「ロングテール」です。

尾崎: ロングテールは、「あまり売れない商品でもアイテム数を幅広く取り揃えることで、 総体としての売上げを大きくする」理論のことです。米『Wired』誌でこの言葉が初めて使われたのが2004年でした。後藤さんはその3年以上前にロングテールを実践していたことになりますね。日本でこの概念が広く知られたのは2006年でしたから、かなりの先取りです。ただ、ロングテールといっても、品数を増やしただけで、すぐ効果が出るものでしょうか?

後藤: 当時、テレビで「あるある大辞典」などの健康番組が流行っていました。テレビで取り上げられていたのは、誰でも知っている商品ではなくて、ちょっとひねったものが多かったんです。どこのドラッグストアにでもある商品では視聴率を稼ぐことができませんから。我々はロングテール戦略だったので、珍しい商品も揃えていました。したがって、番組で新商品が紹介されるたびに、我々の売上も増えるという構図が出来上がりました。

尾崎: テレビの健康ブームと御社のロングテールがタイミング良くマッチしたんですね。

後藤: 健康自体はこれから産業として伸びるとは確信していましたが、あそこまでブームが盛り上がるのは予想外でした。今の健康ブームは当時と比べるとかなり落ち着いています。

ヤフーとグーグルで誘導した!

尾崎: 検索の技術面ではどのような動きがありましたか?

後藤: 当時は時期的に恵まれていたと思います。グーグルが日本語版の検索サイトをリリースしたのが2001年初頭でした。キーワードを入力すると、ヤフーはディレクトリー型(人手を介してウエブ上のサイトを検索する)なので、基本的に「サイト」を探し、グーグルはロボット型(与えられた検索式によってウエブページを検索する)なので「ページ」を探す機能を持っています。つまり、ヤフーは「ケンコーコム」のサイトを、グーグルは個別商品サイトに誘導していたのです。

尾崎: 両社とも技術的に急激な進歩を遂げましたので、検索の市場も変わったでしょうね。

後藤: 2001年のある時期を境にグーグルを通じて我々のサイトにアクセスする数が急激に増えました。当時、グーグルはそれほど知名度がなく、「このサイトは何だ?」「米国のサイトらしいよ」という程度の認識でした。そして、グーグルは米スタンフォード大学の研究を基に検索エンジンを作ったことが分かり、スタンフォードの論文ライブラリーを引っくり返して調べてみました。「こういう風に彼等は検索しているんだ」ということがわかり、我々のサイトをグーグルの検索方法に合わせるようにしたんです。当時は、「SEO(検索エンジン最適化)」という言葉すらありませんでしたが、我々は他に先んじてSEOをやっていたことになります。

尾崎: SEOという言葉ができる前から、調査に基づいてSEOを行っていたわけですか。しかも、論文を引っくり返して。日本企業はロングテールやSEOという言葉が流行って初めて、「何だ、それは」と取り組むところが多いですが、それでは遅いですよね。当時、そこまでやっていた企業が他にありましたか?

後藤: スタンフォードのライブラリーを引っくり返してまで調べていた企業はなかったと思います。

尾崎: 社長自ら調べたんですね?

後藤: はい。もうひとり、社員に「それは面白そうだ」という者がいて、二人でやりました。

 ロングテールとSEOという今では常識となった概念を、後藤さんは他社に先駆けて活用したことが印象的でした。しかも、人から聞いたのではなく、スタンフォードのライブラリーを引っくり返して調べるなど、「ここまでやったのか」ということが驚きです。この「執念」がケンコーコムを差別化させたことがよく分かりました。次回は、これからのイーコマースの姿についてお聞きします。

後藤玄利(ごとうげんり) /1967大分県生まれ。東京大学教養学部卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。1994年、ヘルシーネット(現ケンコーコム)を創業

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