当社は「野菜版SPA」です: ゲスト/らでぃっしゅぼーや株式会社 緒方大助会長 その2

投稿日2013/06/30

当社は「野菜版SPA」です: ゲスト/らでぃっしゅぼーや株式会社 緒方大助会長 その2

前回書いたように、らでぃっしゅぼーや(以下、らでぃっしゅ)はIPOを達成した後、NTTドコモ(以下、ドコモ)が大株主になりました。ただ、ドコモと戦略的なパートナーシップを組むべきか、らでぃっしゅの緒方大助会長(当時社長)は腹が決まっていなかったようです。同社がIPOを行った2008年、緒方さんはスマホを買いました。

野菜もスマホで売れると確信した

尾崎: その頃、スマホを持っている人は殆どいませんでした。そんな早い時期から持っていたのですか?

緒方: ええ。最初に買ったのはiPhoneなのですが(笑)、スマホってどんなものなのだろうと使ってみたら、アプリでモノを買えるから面白い。そこで、当社の野菜もスマホで売れるようトライしよう社内に言ったんです。
その頃タブレットやスマホを使っていて、家のパソコンの電源を全く入れなくなったことに気付きました。結局、普段、パソコンでやってきたことは、スマホで事足りていたわけですね。スマホはパソコンのように操作が面倒でなく、電源を入れるだけで高速通信が出来ます。これからインターネットの主力デバイスはスマホに変わっていくと、その時、確信したのです。そう考えると、ドコモが提携候補として魅力的で、「やるなら本格的にやりませんか」と伝え、先方も検討を始めてくれたのです。

尾崎: 資本政策はスムーズに進みましたか?

緒方: 本音で言うと上場も維持したい。しかし、らでぃっしゅぼーやの成長を戦略的に考えるとドコモの子会社になるほうが、らでぃっしゅぼーやの成長に繋がると考えました。

尾崎: ドコモの子会社になり、同社の厳しい内部統制に組み込まれたわけですが、窮屈感はありませんか?

緒方: 確かに、大会社で、内部統制がしっかりしています。しかし、らでぃっしゅぼーやも子会社化の前から一応上場していましたし、あまり気になりませんでしたね。当時、ライブドア事件の後で、上場審査基準がめちゃくちゃ厳しくなっていたおかげで、ある程度の統制は当たり前という感覚がありましたから。それよりなにより、我々にとってドコモのアセットを使えるメリットがどんなデメリットより大きいわけです。

お客様がショップにきてくれる!

尾崎: ドコモは携帯通信会社ですから、野菜ビジネスの専門家もいないし、彼等独自のアイディアはないですよね。異業種と組むメリットはどういうところにありますか?

緒方: 同業種の企業と組む一番大きなメリットは顧客増です。ただ、それでは、顧客全体のパイが大きくなるわけではないので、全く違う顧客を持つ異業種との提携が魅力的でした。したがって、親会社に口出しをしてほしくないといった考えはありません。我々のやり方が間違っていて、口出しをした方が正解であれば、そちらを選択する方が合理的じゃないですか。むしろ、やるのであれば、そちらもリスクを取って、金だけじゃなくて人も寄越して下さいとお願いしました。

尾崎: なかなか強く主張しましたね。特に買収される側が主張しても、なかなか相手が聞いてくれないことが多いですがね。だけど、緒方さんは所帯が小さいのに相手にリスペクトされる関係を作られたわけです。

緒方: 私はらでぃっしゅのビジネスのことを常に考えています。強く言うとか言わないということよりも、どの解決策が合理的かということに尽きると思います。

尾崎: 資本の論理に慣れた大企業には、そういうことを言われたら激怒する人がいますけどね。

緒方: 私が言いたかったのは、「子会社化されたと言っても、会社同士は対等なので、あくまでドコモが出資している会社の経営者です」という当たり前のことです。だからといって、ドコモに逆らっているわけではなく、合理的に正しい方法を取りましょうということです。
 自分の立場や身分を守る意識が強くなると、言うべきことが言えなくなります。元々社長なんて株主から経営を委嘱されただけの簡単にすげ替えられる存在です。その自覚があれば、自分の考えを徹底的に主張すればいい。要は会社の企業価値が上がることが、株主、経営者共通の目標です。
 今回、私は社長から会長に変わりましたが、新社長はドコモの役員です。これから、らでぃっしゅが成長していくためにはドコモのアセットをフルに活用しないといけない。ところが、私はドコモの社内文化を知らないので、そこに詳しい人に経営を任せたいという話をこちらからしたんです。

尾崎: ドコモアセットのフル活用を具体的に言うと?

緒方: ドコモ契約者のうち、スマホ使用者はまだ全体の3割程度ですけど、少なくともここ3年で7割くらいまで増えると思います。この予想が正しいとすると、3年間で3000万人の人がスマホへの切り換えのため、必ずドコモショップを訪れることになります。新しいスマホには、野菜を注文できる、らでぃっしゅのアプリを最初からインストールしたいと考えています。今までは人やお金を使って広告していたのに、お客様からショップに来てくれるわけですから、こんな効率的な営業はないと思います。

尾崎: ドコモは御社以外にも提携企業を増やし、Eコマース市場に進出しています。ライバルは、アマゾンや楽天になりますね。

緒方: ドコモの加藤社長はそうおっしゃっています。

 ドコモのインフラを利用できるらでぃっしゅは、他の野菜宅配会社より強力な販売ルートを手に入れたことになります。ただ、販売インフラが強くても、消費者は商品の質、品揃えには厳しい視線を投げかけます。らでぃっしゅはどのような商品戦略を持っているのでしょうか。

らでぃっしゅは「野菜版SPA」を実現させたセレクトショップ

尾崎: 他の野菜宅配会社の大地を守る会、オイシックス、パルシステムをライバルとしてどう思っていますか?違いは何ですか?

緒方: 基本は商品内容だと思います。我々は生産者・メーカーが売っているものを仕入れて店先に並べるだけではありません。宅配によってはナショナルブランド(NB)をプライベートブランド(PB)のようにパッケージして売っていることも多くあります。
 我社は販売している食品の9割がPBで、他社と同じ食品を売っていることはまずない。我々はお客さんにフィットする商品を一から開発して店先に並べるセレクトショップのようなものです。だから、我々は「野菜版SPA」なんです。

尾崎: SPAは米国のギャップが始めた「ファッション商品の企画から生産、販売までの機能を垂直統合したビジネスモデル」です。らでぃっしゅが顧客との関係を長く継続するための戦略ですが、御社と農家やメーカーとの関係が強いからできるのでしょうね。

緒方: 私が社長になった時、アイテム数は3000くらいでしたが、今は8000くらいに増えました。品数の少なさ以外に、せっかく宅配会員になってもらっているのに「ワンストップショッピング」が出来ないことが問題だと思いました。
 らでぃっしゅで野菜は一通り揃えることができても、都市生活者は毎日、有機野菜を料理したいと考えているわけではありません。健康志向の人でも、たまにはカップラーメンを食べたいと思いますよね。当社では、一から調理をする食材のみで、カップラーメンは売っていませんでした。それでは客層も広がらないので、品数を増やしてワンストップショッピングをしてもらおうと思ったんです。
 そこで大手スーパーのPOS(販売時点情報管理:売上実績を単品ごとに集計する方法)を使って、スーパーで売れている商品をカテゴリーごとのPI値(レジ通過客千人当たりの 購買指数、顧客の支持度)が高い順に並べたんです。そうすると、カルビーのポテトチップスなどが上位に来るわけです。大手スーパーの取り扱い商品数は1万点、当社は3000点なので、POS上位ランクの商品のうち当社で売っているモノをチェックすると、当然、くしの歯が欠けたような表になります。
 そこで、カテゴリー毎の11位以下の商品は無視して、10位以内のもので我々のリストに入っていない商品を全部揃えるように指示したのです。これで、かなりスーパーの品揃えに近付きます。2001年からは怒涛の商品開発ラッシュでしたね。

本当に美味しい、希少な品種を消費者に!

尾崎: 御社は野菜宅配会社と思っていましたが、野菜だけ売っているわけじゃないのですね。

緒方: 野菜はもう十分に揃っていたんです。珍しい野菜が出るなんて5年に1度あるかないかですから。ただ、ウチは大根といってもレギュラーで4,5種類売っています。スーパーの大根は普通一種類だけですが。

尾崎: その野菜の話ですけど、消費者はトレーサビリティ(野菜の産地確認)にこだわります。東日本大震災の後は特にお客さんの目が厳しくなりましたが、販売会社としては無限にコストをかけられませんね。

緒方: 我々のお客さんは産地表示を重視しています。ですから当社はトレーサビリティを当たり前の状態にしています。
 ただ、食の問題は色々なことが起きるので、殆どの人はあまり細かいことまで気にしていられないと思います。中国産は買わないとか、Aというスーパーは安心だとか、そのレベルだと思います。データや論理的な裏付けはなくても、独自の信頼出来る情報源を大事にされています。例えば、この人が言うなら間違いないとか。

尾崎: 野菜の品質はどこで勝負するんですか?

緒方: 一つはやはり味でしょうね。もう一つは品種だと思います。生産者が売っているものをそのまま消費者に提供していると、モノを作る主体は生産者にあります。そうなると、生産者は作りやすい品種を作りますが、作りやすい品種が美味しい、栄養価が高いとは限りません。
 例えば、ニンジンだったら「ベーターリッチ」が一般的です。無農薬で作りやすい品種ですが、美味しいとは限らない。これよりも「黒田五寸」という品種のニンジンの方が美味しくて、旬の時に食べると柿のような甘さがあります。我々が子供の頃に嫌いな野菜ランキングワースト5位内に、ニンジンが必ず入っていましたね。でも、特徴がない味に改良されているから、今はランキングに入っていません。
 このように、本当は美味しいが、市場の要請や生産者の都合で作られなくなっている品種を、きちんと消費者に提供しようと思います。三浦大根など年に1,2回は入荷されますが、そういう希少な品種は、産地と直接に繋がり、かつ、こちらからこの品種を作ってくださいとお願いするから手に入るのです。

 ドコモのインフラを使って販売を強くするという意思決定は、会社の将来を見据えた、まさに「合理的な判断」です。ただ、販売が強くても、商品の質と品揃えを維持しなければ、競争優位に立てないこともよく分かります。次回はらでぃっしゅの商品・組織戦略に伴う試行錯誤について伺います。

緒方大助(おがただいすけ)氏略歴/1960年、福岡市生まれ。「キューサイ青汁」(現キューサイ)入社、2000年らでぃっしゅぼーや社長に就任。2008年ジャスダック上場を果たす。2013年同社会長

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