円安は内需産業にも恩恵あり!  海外投資を積極的に進めた企業が日本経済を牽引する

投稿日2013/05/15

Yahoo! Newsの尾崎個人ページを更新しました。

円安は内需産業にも恩恵あり!  海外投資を積極的に進めた企業が日本経済を牽引する

円安・株高で実態経済は回復しつつある

5月13日、円ドル相場は102円台を突破しました。これは4年7ヶ月ぶりの円安水準です。昨年末の1ドル77円台を起点にすると、半年で3割以上の円安・ドル高が進んだことになります。つい最近、超円高に戦慄していたことが信じられない状況ですが、これほど急速な円安が進んだのは、黒田日銀の「異次元緩和」の成果と言えます。

ところで、アベノミクス反対派(「反リフレ派」:適正なインフレ率を目指す政策への反対派)の中に往生際が悪い人がいるようです。曰く「円安・株高になったけど、実態経済は変わっていない。」こういうセリフは、現状を理解していない証拠です。何故なら、実態経済は既に大きく変わっているからです。

5月10日は3月決算の上場企業業績発表が集中しましたが、自動車メーカー、証券会社を中心に、まさに「景気が良い」数字のオンパレードです。SMBC日興証券によると、9日までに決算発表した600社余りの決算は、経常利益が全体で16兆7,450億円となりました。この数字は前の年度より14.8%も増えており、2期ぶりの増益です。アベノミクスの円安効果は決算期最後の3~4ヶ月だけなので、経営者の業績見通しはこれを上回っているようです。

「今は円安バブルが起きているだけで、リフレ政策は間違っている。」とひたすら主張する反リフレ派は、今は単なる円安バブルで長続きしないと考えているようです。彼等は超円高と震災によるデフレを半ば放置していた民主党時代の経済政策が正しかったと思っているのでしょうか?

製造拠点の海外移転により円安メリットは減っているのか?

ここで素朴な疑問が生じます。1985年のプラザ合意以来、円高が進んだため、製造拠点を国内から海外に移す企業が続出しました。したがって、日本企業の輸出比率はかなり下がっており、今更円安になってもあまりメリットがないという指摘があります。これは、もっともな話に聞こえます。日本経済は構造が変わり、昔のように円安の恩恵を受けないのでしょうか?

2012年の名目国内総生産(GDP)に貿易が占める割合を見ると、輸出が14.6%、輸入が16.6%です。円安になれば、純輸出の円換算額が増加するので、GDPが嵩上げされます。この比率だけを見ると、日本は「貿易立国」といっても海外との貿易は意外なほど少ないことが分かります。製造拠点を海外に移せば、その分輸出が減少します。そうなれば、「為替の変動に目くじら立てる必要はないのでは」という疑問が出て当然です。

カギは海外子会社の売上にあり!

この疑問を解消するには、企業の売り上げ構成を考える必要があります。純粋に国内のみで事業を行っている企業(ある程度の規模があれば、そういう企業は珍しいですが)を除けば、

企業の連結売上=国内売上+純輸出(輸出-輸入)+海外子会社の売上

になっています。この式から国内の本社と海外の子会社間の取引を控除しなければなりませんが、細かい数字を無視すれば、大枠はこのようになっています。

ここでポイントとなるのは、「海外子会社の売上」です。企業会計のルールは「連結決算」になっており、国内、海外を問わず、子会社の売上は企業グループ全体の売上に合算されます。親会社から子会社への出資比率に応じた分だけ子会社売上が合算されるのです。グループ全体の売上を増やしたければ、営業努力をするより、売上が伸びている企業を買収して子会社化した方が手っ取り早いと言えます。

円高に苦しんで海外に生産拠点を移せば輸出は減りますが、その分、海外子会社への出資が増えます。海外子会社の売上は主にドル建て、ユーロ建てなので、外貨ベースの売上が変わらなくても、円安になれば円換算の金額が増加します。円安になると、輸出していない企業でも、子会社の売上評価額が増えるわけです。そうであれば、円安の恩恵を受けたいからと、海外に移した生産拠点をわざわざ国内に戻す必要はないのです。そのような、時間と金銭的なコストをかけなくても、海外投資をしていれば、円安の恩恵が受けられます。

輸出が少ない日産にも円安効果は大きい

ただ、企業の事業構成によって円安の影響も変わります。企業の海外市場における事業構成は、1.主に輸出、2.輸出+海外子会社、3.部品輸出+完成品輸入、4.主に海外子会社への出資の四種類に分けられます。ここでは原料の輸入は考慮していません。輸出ばかりしているという企業は減りましたが、輸出+海外子会社という形で世界に事業を分散させている業種の経済への影響力は大きく、その代表が自動車です。

同じ大手自動車メーカーでも、トヨタと日産では海外への分散度合いが違います。直前の決算期で比較すると、トヨタの自動車の海外生産比率は51%ですが、日産は75.4%です。また、販売の海外比率は、トヨタが75%、日産が87%に達します。これらの数字を見ると、トヨタの方が、輸出比率が高いので円安の恩恵が大きいはずと一般的には思われています。ところが、海外事業の比率は日産の方がはるかにが高いので、一概にトヨタの方が円安の恩恵が大きいとは言えないことになります。

両社の前期決算の売上は、トヨタが22兆641億円で前年比18.7%増、日産が9兆6,296億円で前年比2.3%増です。自動車会社の決算は国別の景気動向の影響が大きく、為替だけで決まるわけではありません。ここで重要なことは円安の効果がまだ両社の決算に十分に織り込まれていないことです。両社の売上高は1ドル81~82円を前提に海外売上が算入されており、仮に現在の1ドル100円を使って両社の売上を計算し直すと、トヨタが9.8%、日産が11%も嵩上げされます。決算の前提となる数字よりさらに円安が進んでいるので、両社とも10%前後の「含み益」を持っていることになります。これは経営者にとって大きな「精神安定剤」になります。

海外投資で含み益を得ている業種は多い

円安効果は典型的な輸出業界(のはず)の自動車以外にも及んでいます。例えば、海外で工場を持たず、投資事業のみを行っているソフトバンクも大きな恩恵を受けています。昨年10月に米携帯大手スプリント・ネクステルを201億ドル(約2兆100億円)の巨額で買収する合意に至りました。買収資金の内、170億ドルの為替リスクをなくすため、同社は為替予約をしていますが、有価証券報告書によると1ドル83円程度でコストを確定していると思われます。言い換えると、1ドル83円より円安になれば、ソフトバンクに利益が生じます。大きく円安になった1ドル100円を基に評価すると、ソフトバンクの170億ドルの資金は、2,900億円ちかい含み益を得ていることになります。

円高が急速に進んだ2008年以降、日本企業の海外合併・買収(M&A)の金額は約25兆円に上っています(レコフによる)。ここで重要なのは、自動車、電機、精密のようなグローバル企業だけでなく、医薬、食品、金融、サービスといった内需企業など幅広い業種が海外投資を行っていることです。昨年までに「円高の今こそ海外投資のチャンスだ」という経営判断をした企業が「賭けに勝った」と言えます。

経営判断の成功は投資を積極的にし、賃金を上げ、そのことが消費を増加させます。もちろん、個別の業界や企業を見ると、このサイクルに乗っていない例は多いはずですが、その失敗例を「アベノミクスの失敗」の象徴にする必要はありません。経済回復は常に特定の好調なセクターから始まり、やがて全体に波及するからです。

ネスレもスイスフラン高で苦労してきた

スイスにネスレという世界有数のグローバル食品企業があります。業績好調な企業と思われていますが、スイスは日本と同じ悩みを抱えています。スイスはユーロを通貨として採用せず、スイスフランを維持しており、恒常的な自国通貨高に悩まされてきたのです。昨年、円高、スイスフラン高が止まらなかった時、同社の経営陣とお会いした際、「スイスフラン高だけは経営では制御できない。したがって、為替変動を加味しない業績も同時に提示して株主の理解を得ています」というお話を聞きました。

日本はかくも為替の変動に左右されやすい経済だということが今回再認識されました。市場を見ると、すぐに極端な円高に戻るとは考えにくいですが、ユーロ危機、北朝鮮問題、米国の「財政の崖」など円高に戻る要因がないわけではありません。円安が続く間に企業は基礎体力を高め、為替変動による影響を軽減する取り組みが必要でしょう。

Copyright©2013 Hiroyuki Ozaki. All Rights Reserved.


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