ミドリムシのバイオ燃料は本当に有望か?

投稿日2013/05/01

ミドリムシのバイオ燃料は本当に有望か?: 「仕入れリスク」と「LCA」がカギとなるユーグレナ

2013年4月24日(水)  尾崎 弘之

 昨年12月末、東証マザーズに新規株式公開(IPO)したユーグレナ(東京都文京区)の株価が絶好調である。同社はミドリムシを使った健康食品やバイオ燃料などを開発しているバイオベンチャーだ。4月につけた上場来高値は初値の5倍以上となり、時価総額は600億円に迫っている。最近の新興企業はPER(株価収益率)が重視されているので、PERが70倍に迫る株価パフォーマンスを見せるのは久しぶりである。

 ユーグレナが扱い、社名にもなっているミドリムシの一種「ユーグレナ」は、バイオ燃料や栄養価の高い健康食品の原料となることが知られていた。ミドリムシは昆虫と間違えられることが多いが、ここでは、ミジンコのように動きながら光合成も行う、動物と植物のあいのこの「微細藻類」のことである。

 ユーグレナ事業化のカギは量産化できるかどうかだが、同社社長の出雲充氏は東京大学農学部在学中から事業化の可能性を感じ、都市銀行に数年勤務した後に起業した。大手企業志向が強い東大生としては「変わり種」と言える。

 ユーグレナをはじめとするバイオ燃料は、再生可能エネルギー(再エネ)全量買取制度の対象である。原油への依存を減らしたい日本としては、是非とも推進したいエネルギーだが、実は一筋縄ではいかない。

 バイオ燃料といってもいろいろな種類があり、どれでも温暖化防止に役立ち、環境負荷が低いわけではない。数あるバイオ燃料の中で、なぜユーグレナが注目されているのであろうか。これを理解するキーワードは「仕入れリスク」と「ライフサイクル評価(LCA)」である。

 仕入れリスクは、マイケル・ポーター米ハーバード大学教授の「ファイブフォース」に含まれる経営の重要な要素である。メーカーが原材料を仕入れ先から購入する場合、通常は買い手であるメーカーの立場が強い。しかし、原材料の調達が難しく希少価値があると、逆に仕入れ先のパワーが強くなり、場合によっては仕入れ先が価格を決定することになる。パソコン全盛時代の米マイクロソフトや米インテルがそうであった。買い手はこのような仕入れリスクをマネージしなければならない。LCAについては後で詳しく述べる。

バイオ燃料が再エネとみなされる理由

 バイオ燃料は実用化がかなり進んでおり、ドイツでは、再生可能エネルギー消費の67%を占めている(2011年の実績)。米国では、2005年の「エネルギー政策法」によってバイオ燃料導入の数値目標が定められた。

 カナダのIISD(インターナショナル・インスティチュート・フォー・サステイナブル・ディベロップメント=持続可能な開発に関する国際研究所)の調査によると、年間70億ドル(約7000億円)の補助金が、バイオ燃料の原料を作るトウモロコシ農家に支給されている。

 バイオ燃料は植物を原料とするが、ガソリンや天然ガスと違って原料はほぼ無尽蔵である。これが太陽光や風力と同様、再エネとみなされる理由だが、燃やせば化石燃料と同じく二酸化炭素(CO2)を排出するのに、なぜバイオ燃料は温暖化防止に役立つとみなされているのか。

 それは、原料に植物が使われているからである。植物は光合成により大気中からCO2を吸収するので、燃やして排出するCO2は元に戻っただけで、理論上大気中のCO2総量は増えないことになる。この考え方を「カーボンニュートラル」と呼ぶ。

エネルギーと食糧の競合で高まった原料の仕入れリスク

 バイオ燃料を生産する企業にとって、競合商品はガソリンとディーゼルであり、値段、品質、サービスによってライバル企業との競争に備えればいい。しかも、バイオ燃料特有の補助金を利用できるから、その分有利である。

 ところが、2008年を境に状況が変わってしまった。当時の米国では、トウモロコシ原料のバイオエタノールが伸びていたが、原油価格高騰をキッカケに食糧価格も値上がりし、原料である食糧の仕入れ確保が困難になってしまったのである。

 シカゴ商品取引所の相場を見ると、2007年から2008年にかけて、トウモロコシと大豆の価格は最大3倍、小麦価格は最大2.7倍まで値上がりした。また、2008年には、ハイチやホンジュラスなどで食糧を求めて暴動が発生した。

 この時期、原油価格高騰以外に穀物価格急騰の要因として指摘されたことは、豪州などの大規模な干ばつ、新興国の食糧需要増加、ファンド資金の穀物市場への流入、一部の生産国による輸出制限、そして、穀物がバイオ燃料に転用されたことである。

 2007年のトウモロコシの世界生産量は7億8479万トンで、そのうち、42.3%が米国で生産された(出所:世界統計白書による)。同じ時期、米国で8382万トンのトウモロコシが燃料用に使われた(出所:米農務省)。この数字は、同年の世界のトウモロコシ生産の増加量にほぼ匹敵する。

 米エネルギー省は、「2008年の穀物価格暴騰の主犯はバイオ燃料ではない」という内容のリポートを出したが、バイオ燃料への転用の影響が大きかったことは否定できない。

 トウモロコシは家畜の飼料に使われるから人間の食糧と関係なさそうだが、飼料のコストが上がれば、食肉価格も上がってしまう。また、バイオ燃料補助金を狙って、小麦・大豆畑をトウモロコシ畑に変えることが増え、生産品種が偏ってしまった。この結果、食糧とエネルギーが競合して原料が不足し、仕入れ先であるトウモロコシ農家のバイオ燃料企業に対するパワーが強くなってしまった。

仕入れリスクが低い原料への転換

 原料を仕入れることが難しくなれば、新たな原料を探さなければならない。そこで、穀物などの食糧を原料にした「第一世代バイオ燃料」に依存するのではなく、食糧にならない雑草、木くず、廃食油などを原料とした「第二世代バイオ燃料」の開発が脚光を浴びるようになった。

 ところが、第二世代バイオ燃料も仕入れリスクの解決に至らなかった。確かに木くずや雑草は食糧との競合がないのだが、ジャングルの中から雑草を調達すると、輸送のためのエネルギーが必要で、思ったより調達コストが高いからである。その分、CO2排出量も増えてしまう。

 そこで、第二世代バイオ燃料の問題を解決すると期待されているのが、ミドリムシなどの微細藻類を原料とした「第三世代バイオ燃料」である。ユーグレナはこの一種である。

微細藻類を原料にするメリット

 ミドリムシ、クロレラ、アオコなどの微細藻類は極めて効率的に光を吸収し、バクテリア並みに成長が早い。また、細胞内には脂質が多く含まれており、一部の藻類は石油や天然ガスの主成分である炭化水素を生産する。

 実用化には、数万種の藻類の中から原料として最適な種を選別し、大量に培養することが必要となる。藻類は葉や茎がないため、陸上植物より廃棄物が少なく、タンクの中で培養できるという利点がある。

 1990年前後、微細藻類を使ったバイオ燃料の研究が、米エネルギー省傘下の研究所で盛んに行われた。現在,米国で数十社の藻類ベンチャーが立ち上がっているのは、それらの研究成果が基となっている。シェブロン、ボーイングといった大企業も藻類市場に注目し、ベンチャーとの提携を進めている。

 これら油の収量が大きい藻類は外敵の攻撃に弱いので、一般的に大量培養することが難しい。言い換えると、大量培養が難しいから、これまでビジネスにならなかった。藻類ベンチャーが注目を浴びているのは、大量培養技術に革新が見られるためである。動植物などの天然物は特許の対象にならないので、培養方法の特許化、またはノウハウとすることでビジネスを成立させる。

LCAによるバイオ燃料の選別

 カーボンニュートラルによってバイオ燃料は再エネとみなされているのだが、最近、バイオ燃料ならば何でもカーボンニュートラルとみなされなくなっている。

 バイオ燃料は植物の自然な成長、分解、死滅から作られるのではなく、人為的に植物を加工して作られる。加工プロセスには当然エネルギーが必要で、化石燃料を使えば、そこからCO2が排出される。加工での排出量が多ければ、トータルで逆にCO2を増やしていることになり、カーボンニュートラルでなくなる。例えば、セルロースで出来た固い外皮で覆われた雑草を原料にすると、加工のためのエネルギーが大きくなる。

 こういった弊害を避けるために、光合成や燃やす時に吸収・発生するCO2だけでなく、製品のライフサイクル(生産、運搬、使用、廃棄すべてのプロセス)で吸収・排出されるCO2をトータルで評価する必要がある。これを「ライフサイクル評価」(LCA)と呼ぶ。

 LCAを行うと、バイオ燃料は、化石燃料と比較してトータルでCO2排出を増加させているか、減少させているかの実態が把握できる。LCAでは、次の5段階において、エネルギー投入量とCO2排出量を評価しなければならない。
•原料(バイオマス)の調達(農業機械や肥料の使用)
•バイオマスの輸送(トラックや船舶などの燃料)
•バイオマスの製造(前処理、化学的・物理的処理)
•出来上がった燃料の市場への輸送(海上輸送と陸路輸送がある)
•燃料の使用(燃焼によるCO2排出)

バイオ燃料であれば何でもいいわけではない

 現在、バイオ燃料であれば何でもいいのではなく、LCA的にCO2削減効果が50%以上ある燃料しか使用を認めないという基準が欧米では作られている。この基準によると、CO2を50%以上削減するバイオ燃料は、ブラジル産サトウキビ原料のバイオエタノールと甜菜・建設廃材を使った燃料ぐらいしかない。藻類バイオ燃料のLCAは今後進んでいくだろう。

 しかも、ブラジル産サトウキビといっても、既存農地で栽培されたものだけが基準に合致し、アマゾンの森林を開墾して栽培された作物はカーボンニュートラルとみなされない。森林開発によるCO2の増加がカウントされるからである。

 また、原料から油やアルコールを抽出した後の残渣(残りかす)処理の問題も大きい。廃棄物処理にエネルギーがかかるし、環境汚染の原因にもなるからだ。この点、藻類から油を採った残渣はタンパク質やミネラルを含むので、栄養食品や天然ポリマーの原料として使える。

 ユーグレナは株式市場でバイオ燃料企業と位置づけられているが、この分野からの収益は少なく、実態は「ユーグレナ健康食品企業」である。ただ、残渣を捨てて環境に悪影響を与えているバイオ燃料企業が多い中で、残渣も有効活用するエコシステムを開発するという戦略は注目に値する。

 欧州ではディーゼル車の比率が高く、バイオディーゼルの有望な市場になるかもしれないが、ハイブリッド車と電気自動車が増えれば、バイオ燃料は頭打ちとなる。ただ、大型車、船舶、飛行機などクルマと違った有望な市場があることも事実である。バイオ燃料の市場は補助金、仕入れリスク、LCAが複雑に絡んで成長していくだろう。

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ミドリムシのバイオ燃料は本当に有望か? への1件のフィードバック

  1. 手塚廉一 のコメント:

    日本では人口の減少により、土地の価格は、ますます安くなりつつます。宅地、農地、山林などで、利用されない土地が、沢山出てきます。この遊休土地を利用して、みどり虫栽培によるバイオ燃料を製造し、残渣は家畜飼料、有機質肥料、養殖魚飼料として利用する事が出来るのではないか、また、日本が産油国となれば,貿易収支が改善される事でしょう。私も遊休土地が沢山ある地方に住んでいますので、この仕事に携わり、当地方の振興尽くしたいと考えています。

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