東北復興プランを違う角度から見る

投稿日2011/05/31

東北復興プラン作成がもたついています。政府の仕切りが悪いこともあるでしょうが、津波被害の復旧が難航していることも復興プランがなかなか出来上らない理由でしょう。
政府の復興会議がクリーンエネルギーを使った街作りをぶち上げるのは良いのですが、そのためのベースとなる「思想」が大切でしょう。その思想として、被災地に「災害に強い電力網」を築くことが考えられます。具体的には分散型電力ネットワークです。
東北の復興プランは日本の「新たなインフラ輸出」構築のチャンス
4月23日、東日本大震災の被災地復興のグランドデザインを検討する政府の「復興構想会議」(議長・五百旗頭真防衛大学校長)の第2回会合が開かれた。会議メンバーの村井嘉浩宮城県知事、達増拓也岩手県知事は、土地利用などの再生ビジョン、特区創設なとの推進体制、復興財源について考えを述べた。二人の知事に対し、佐藤雄平福島県知事は「福島では原子力災害が進行中で、具体的な復興ビジョンを提案できる段階ではない」と忸怩(じくじ)たる思いを述べ、岩手、宮城との温度差が明らかとなった。
「復旧」と「復興」の複雑な関係
 佐藤知事の発言は、復興ビジョン作成の難しさを物語っている。
 東日本大震災のような甚大かつ広範な災害の場合、どうしても復旧に時間がかかる。ただ、復旧の完了を待っていては、復興の青写真を描くことが遅れるので、どうしても見切り発車になってしまう。福島では、原発事故収束のメドが立って初めて復旧と言える。岩手、宮城も実は同様で、未だに行方不明者数が合計1万4000人に迫り、がれきの山が多数残されている。「復旧が終わらなければ復興どころではない」と感じる被災地と、復興を急ぎたい政府との温度差が、復興計画を難しくする。
 復興プランを作る上での二番目の問題点は、「被災者の生活」と「公益」のバランスを取ることの難しさである。被災地を医療や介護のモデルタウンにするのは良いが、元の仕事を続けたい農業・漁業従事者はどうなるのか。また、住民の移動を減らすため、高層ビルを作って職・住・公共を近接させる「コンパクトタウン」を作ると言っても、過疎地のお年寄りは高層ビルに住みたがるだろうか。さらに、海岸近くの土地に戻りたいという住民の希望を優先すれば、高さ25mの堤防が必要となる。その資金は誰が負担するのか。
 住民の利益と公益のバランスは常にある問題だが、復興構想担当者側と被災地との細心かつ粘り強い交渉が必要である。そう考えると、復興構想会議のような「アドバルーン」を上げることは弊害が大きいのかもしれない。
バランスが取れ、成長戦略にも貢献する「災害に強いエネルギーインフラ」
 被災地や住民の利益を害さず、かつ、日本の成長戦略という「公益」に貢献するプランも存在する。例えば、「農業の生産性の向上」と「災害に強いエネルギーインフラの構築」である。前者については、復興構想会議で村井知事が発言した「農地・漁港の一部国有化」が手段になるだろう。このようなプランの必要性は長年言われてきたが、農業もエネルギーも利権が大きいことと、プラン実現の予算不足が原因で、実現されなかった。ところが、今は復興資金が潤沢にあり、ゼロからモノを作ることができる。プラン実現のチャンスである。
 災害に強いエネルギーインフラとは何か。早稲田大学の横山隆一教授は、「電力会社が作った巨大ネットワークに依存しない『地産地消』の電力ネットワーク」を提唱している。
 電力会社が構築している既存ネットワークは、過密な都会を避けながら、過疎地に巨大な原子力、火力発電所を建設して、高圧送電線で都会に電気を送る「中央集中型ネットワーク」である。このメリットは、巨額の設備投資によって単位あたり発電コストが下がることである。中央集中型といっても、主力発電所が一基ダメになった程度では、全体の電力供給に影響が出ないよう設計されている。しかし、今回のように発電能力の40%がダメージを被る大災害が起きると、被災地の長時間の停電や、大都市の計画停電が起きてしまう。
 これに対して、電力消費地の近くに、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、小型水力発電、ディーゼル発電などの中小型発電所が分散設置されていれば、大災害時でも停電の被害を大幅に緩和できる。これが、エネルギーの地産地消を行う「分散型ネットワーク」である。
分散型ネットワークのメリット
 分散型ネットワークの欠点はコストが高いことと、出力が不安定なことである。例えば、太陽光発電のコストは原子力発電の7.4倍~9.5倍もするが、クリーンエネルギーの本格的な補助金制度法案が国会に提出されている。また、そもそもこのコスト差は原子力廃棄物の処理コストを含まないで計算されている。原子力の廃棄コストがいかに高いかは、我々は思い知っている最中である。また、分散型ネットワークは、中央集中型ネットワークと異なり、送電線設置に巨額のコストを必要としない。さらに、出力が不安定な欠点は電池などの技術でカバーできる。
 横山研究室は、分散型ネットワークによって、災害時の電力供給先に優先順位をつけることが可能なことも指摘している。首都圏の計画停電では、複雑で巨大な送配電網があるため、公共施設、病院、学校、信号などに優先的に電気を送ることができない。また、高い電気代を払ってでも電気が欲しいというハイテク工場のニーズに応えられない。ところが、分散型であれば、非常時に優先度が高い対象のみに配電する設計が可能になる。
 何故、今までこのようなことができなかったのか。4月18日のコラム「『東京電力処理』で忘れてならない視点: 日本の電力供給の構造的問題の解決」に書いたとおり、電力の安定供給が責務となっている電力会社が、中央集中型ネットワークを不安定にするという理由で、分散型ネットワークとクリーンエネルギーの導入に消極的であったからに他ならない。
分散型ネットワークと日本の「インフラ輸出」
 分散型ネットワークの導入には、他にもメリットがある。それは、日本の成長戦略に貢献できることである。
 分散型はあくまで中央集中型の補完ネットワークとして存在する。今の技術水準やコストでは、分散型ネットワークによって大都市の電力需要を賄うことができないからである。太陽光発電が原子力発電や火力発電の代替になることは理論的に可能でも、当分無理である。これを理解しないと、単純にクリーンエネルギーを増やせという非現実的な主張になる。
 今後、分散型ネットワーク構築と運営の実績を積めば、まだ確立されていないクリーンエネルギー安定運営技術において、日本が世界で抜き出る可能性がある。欧州はクリーンエネルギー先進地域だが、風力発電の比率が高くなり過ぎたために、近年は出力の不安定化に悩まされている。「2020年までにクリーンエネルギー比率を20%にする」という欧州の目標実現には、依然課題が多い。
 このプランが実現して国内で波及すれば、日本は近い将来、クリーンエネルギーの「インフラ輸出大国」になるかもしれない。日本のインフラ輸出を原発技術に頼ることは困難となった。日本にとって「バラ色のシナリオ」の実現には、東北三県の復興計画の内容にかかっている。
ウォールストリート・ジャーナル4月25日コラムReprinted with permission of The Wall Street Journal, Japan. Copyright © 2010 Dow Jones & Company, Inc. All Rights Reserved Worldwide


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