夏場の電力は本当に足りないのか

投稿日2011/05/09

夏場の電力は本当に足りないのか?これは多くの人が持つ疑問です。東京電力の予測電力供給能力が、突然数百万kwも跳ね上がるなど、不審なことが多い。
原発についてはかなり情報公開が改善されたと感じますが、電力供給については、明らかにそうなっていません。
そこで、東京電力の財務処理以外に忘れてはならない視点を指摘します。
東京電力処理」で忘れてならない視点: 日本の電力供給の構造的問題の解決
4月8日に計画停電は打ち切られたが、東京電力(東電)管内では今年夏場の大幅電力不足が懸念されている。同社は4月15日、7月末の電力供給力見通しを5200万キロワットへ上方修正したと発表した。ただ、今夏の最大電力需要を5~12%下回っている。
 夏場の電力消費削減は、工場のシフト変更、自家発電、オフィスや家庭のエアコン使用抑制など様々な手段を総動員しなければならない。これらで停電を回避できれば、大きな問題は解決したと言えるのだろうか。いや、そうではないだろう。このままでは、日本の電力供給の「構造的な問題」が単に先送りされる可能性がある。
電力安定供給責任と地域独占体制
 構造的な問題とは、公共財である電力の供給を純粋な民間会社である10社の電力会社が実質的に独占し、原発事故が起きない「平時」は、東電のような秘密主義が黙認されていることである。この背景には、各社に電力を安定的に供給する責任が課せられ、その見返りとして、東電なら関東圏という地域独占と、原子力など電源開発に関する経営の自由度が認められていることがある。
 何故、このような体制になったかというと、日本発送電株式会社の解体が源流となっている。同社は戦前・戦中、国内の発電・送電設備を総て管理下に置き、電力の国家統制を担っていたが、戦後にGHQより解体の要請が出された。1951年、当時、政府委員であった松永安左衛門氏の提案で、全国9地域ごとに発電・送電・配電を一貫して担当する企業をおく分割民営化が実現された。1972年の沖縄返還後、沖縄電力が加わって、10社体制となった。
 NTT(元電電公社)、JR(元国鉄)、JT(元専売公社)、NEXCO(元日本道路公団)のように、インフラ事業の民営化は、政府系機関の非効率さを改善する目的のものが多いのだが、戦後すぐに民営化された電力は特殊と言える。民営化によって、税金を投入しなくても利益を生む体質に変わった組織は少なくない。したがって、東電を国有化すれば問題解決するという案には疑問が付く。
民間企業が電力を管理する構造的問題
 ただ、福島原発事故をきっかけとして、民間企業が電力を管理していることの問題点が明らかになった。ひとつ目は発電設備運営に対する考え方である。原発は一基数千億円もする高価な資産なので、事故が起きて甚大な被害に発展する可能性があるにもかかわらず、東電幹部は、まず原発施設を破損させないことを優先させてしまった。初動で真水の冷却水を供給できなかった時に、格納容器内に海水を注入しなかったのだ。大事な資産を海水によってダメにしたくなかったわけである。今後、この判断の正当性は検証されるであろうが、企業経営者は自社の利益を守らねばならないので、東電の判断は100%責められるものではない。むしろ、公益を害する可能性がある原発を民間企業が管理している体制の方が問題である。
 二番目は「電力供給責任の在り方」である。電力業界は電力を安定的に供給する責任と引き換えに、実質的に地域独占が認められてきた。独占は秘密主義と独善主義をうみやすい。秘密主義は原発リスクを隠ぺいすることにつながり、独善主義は、電力供給システム(グリッド)を不安定にするという理由で、太陽光発電や風力発電などのクリーンエネルギーの導入に消極的なことにつながる。クリーンエネルギーは、出力が天気や風向きに左右されるという欠点があるが、化石燃料が不要で、CO2を排出しないというメリットがある。クリーンエネルギーによる「分散化電源」の実用化には、グリッドを使った社会実験が必要だが、独善主義がこれを阻害する。
 三番目に顕在化した問題は、地域独占の弊害である。東電、東北電力管内で電力不足になれば、本来は中部電力(中電)や関西電力(関電)から電力供給を受ければ良いのだが、静岡の富士川をはさんで、東西で50Hz、60Hzと周波数が異なることがネックとなっている。電気系統で見れば、東西違う国が並存していることと同じだ。現在、新信濃周波数変換所など三カ所で、東西相互に電力の融通を行っているが、変換能力は100万キロワットしかない。この問題は以前から指摘されていたが、変換所建設と送電線設置用地買収のために時間と資金がかかり過ぎるという理由で、原発開発が優先されてきた。
「東西問題」解決は国家としての課題だ
 「東西問題」の解決は現実的でないという電力業界の説明は本当であろうか。実は東西境界線は厳密なものではなく、混在している場所が存在する。例えば、富士川東側の東電管内に60Hz地域があるし、中電管内の安曇平は50Hzである。お金がかかる変換所を建設しなくても、既存の変電所用地を利用して、中電から東電管内に50Hzの送電線を伸ばせば、安く済み、時間もかからない。変電所の場所によるが、富士川のすぐ東に新富士の製紙工場集積地域、甲府市、沼津市などの大消費地がある。これら地域の大口消費者に60Hzの送電線を引いて、電力会社の負担で小型変換設備を設置すれば、東電全体の負担が下がる。何も、東京まで何百キロも送電線を引く必要はないのだ。
 これは、中電が東電を救済するべしという主張ではない。仮に将来、中電や関電管内で電力不足が起きた時、このようなシステムがあれば、逆に東電から中電に電気を送ることができる。要は国のエネルギー・リスク管理の問題である。ただ、発電・送電・配電と地域を各電力会社が独占していると、現状がなかなか変わらない。日本の配電網は自動化されて、停電時間も世界水準の5%程度と質が高いのだが、それは現状を変える必要がないことを意味しない。
 原発事故に伴う東電の賠償額は数兆円規模になりそうである。東電が支払いできない場合は、税金で補てんすることが法律で制定されている。つまり、電力会社は巨額の賠償負担で倒産することが想定されておらず、準公共事業と言える。企業としてのガバナンスを理由に、エネルギー安全保障強化のための施策を拒むと国益に反することを強調したい。
 東電経営陣は6月株主総会で退陣予定であるが、看板を換えるだけ、あるいは、発電と送配電を分離するだけの理念なき改革で終わってはならない。本稿で指摘された問題点を、電力業界ではなく政治主導で解決することが、改革に必要である。
ウォールストリート・ジャーナル4月18日コラムReprinted with permission of The Wall Street Journal, Japan. Copyright © 2010 Dow Jones & Company, Inc. All Rights Reserved Worldwide


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