八百長大相撲とコーポレートガバナンス

投稿日2011/02/21

泥沼で先が見えなくなった大相撲の八百長ですが、「企業のコーポレート・ガバナンス」も同じ泥沼に入って久しいです。
J-SOXの対応で苦しんだ日本企業に、次はIFRSという激震が待っています。企業は「ガバナンス」の名の下、本業そっちのけで、複雑な国際・国内ルールに対応しているという「証拠」を残さなければなりません。それが、どれだけコスト高になり、企業の活力を殺いでいるか・・・・
また、厳しくなったルールが、企業経営の適正化、健全化にどれほど役に立っているか分からないということが悲劇です。
これから、企業経営者はどうすれば良いのか?
八百長大相撲」を企業は嗤えるか
2月12日、大相撲の八百長問題の全容解明を目指す特別調査委員会は、八百長疑惑がかけられている千代白鵬関や竹縄親方ら14人だけでなく、2009年九州場所以降に十両以上の経験がある力士、親方計78人に対する面談調査を完了したと発表した。現状の聴取では新たな八百長関与者は確認できなかったようだが、特別調査委は再聴取の可能性を示唆している。
 また、日本相撲協会は2月8日、新公益財団法人に移行するための協会改革協議を凍結することを発表した。新制度下での公益財団法人への移行は、事務的なやり取りの時間を考えると、申請の実質的な期限は2012年の秋である。
 果たして八百長の全容解明と再発防止はできるのか。問題解決には、今までの八百長を表に出して構造変革を行うことが不可欠であるが、協会は「過去に八百長はない」と公言してきたので、それは無理だろう。ただ、なし崩し的に再発防止策だけ出しても、今回は周囲の納得は得られない。八方塞がりの感がある。
 この問題は「相撲界の旧い体質」が起因しているが、果たして大企業の経営者は、相撲界を時代遅れと嗤うことができるだろうか?いや、企業も大相撲と同様不祥事に苦しみ続け、しかも、根本的な解決策が得られないでいる。
企業不祥事の歴史
 日本企業の不祥事にも長い歴史がある。高度成長の矛盾が露呈した1970年頃、2回のオイルショック、円高不況、バブル生成の過程で、公害、環境破壊、欠陥商品、誇大広告、インフレに伴う買占め、便乗値上げ、株価操作、脱税、入札談合、贈収賄など、企業の確信的な反社会的行為が続いた。また、不正に合わせて取り締まりのための規制が作られた。さらに、バブル崩壊以降は、不正融資、インサイダー取引、利益供与、損失補填、粉飾決算など、不正の多様化が進んだ。
 巧妙化、多様化する企業不祥事に対して、後追いの規制強化の明らかな限界が見え、対策として「コーポレート・ガバナンス」(企業統治)が導入された。コーポレート・ガバナンスは、1960年代の米国に源流があり、企業の非倫理的・非人道的な行動の抑止が目的であった。その後、企業価値・株主価値を増大させることも目的に加わった。
大して機能していないコーポレート・ガバナンス
 コーポレート・ガバナンスは「取締役会、監査役、株主総会、各種委員会、労働組合、株主などの制度・機関によって、経営者を監視・牽制する仕組み」のことである。また、①株主の権利や取締役の忠実義務などを定めた「組織型コーポレート・ガバナンス」、②資本市場を通じた「市場型コーポレート・ガバナンス」、③ストック・オプション付与による経営者への「インセンティブ付与」に分類される。経済開発協力機構(OECD)は1999年、「株主権利の保護」「情報開示と透明性の確保」など、コーポレート・ガバナンスの国際的な基準を発表して、各国の利用を促した。
 1990年代に内容が進化したコーポレート・ガバナンスだが、果たして実効性はあったのか。ご存じのとおり、あまり機能しなかった。2000年代前半には、エンロン、グローバル・クロッシング、ワールドコム、アデルフィア・コミュニケーションズなど、不祥事による米国大企業の破綻が相次いだ。
 そこで、2002年7月、「財務報告に関係する内部統制の整備状況の公表」を目的として、「サーベンス・オクスリー法」(「SOX法」)が米国で制定された。SOX法によって、情報開示の責任が重くなった企業は、社内の殆ど総ての会議記録を作成し、IT化することが義務付けられた。ところが、SOX法もリーマン・ショックを防ぐことはできなかった。過度なレバレッジをかけた金融機関や株価の極大化を目指した企業経営者の行動を抑止することに、SOX法は無力だった。これは、同法は「会社の経営を監督する」制度ではなく、「『経営者は不正をしない』という宣誓書があること」と、「社内で『倫理教育』が行われていること」の監査制度に過ぎないからである。
 欠陥だらけの米国のコーポレート・ガバナンスを数年遅れで追いかけてきたのが日本。そろそろ、世界の企業は「コーポレート・ガバナンスがあれば企業経営は正常化されるはずだ」という「迷信」から抜け出すべきである。
コーポレート・ガバナンスが機能しない理由
 2002年に経団連が行ったアンケート調査によると、コーポレート・ガバナンスがうまく機能しない理由として下記の項目が挙げられている(一部抜粋)が、このような問題点の解決がヒントになるだろう。
① 多くの社員を抱える中で、企業倫理意識を末端まで徹底することは難しい
② 幹部と一般社員の間に意識の乖離がある
③ 社員の一挙一動まで管理できない
④ 社内のコミュニケーションが難しい
⑤ いくら体制整備や研修をしても社員が問題意識を持たない限り防げない
⑥ 社員の会社に対する忠誠心が希薄になっている
 ただ、コーポレート・ガバナンス強化以外に、有効な「制度」を設けることは容易ではない。経営者が法的な「制度」を守ることは当たり前で、それ以外に、企業が創業の理念に立ち返り、理念と日常業務が密接にマッチする「仕組み」を個別に作らなければならない。それを愚直に実行する以外の解決策はないだろう。表面的な「企業倫理研修」を経営者や従業員が受けても、あまり意味がない。
不正防止の前提として必要な「常識」の見直し
 ただ、各企業が有効な仕組み作りをする前提として、既に金属疲労を起こしているのに「常識」とみなされている制度は修正されるべきである。主な項目として下記の3点を挙げる。
① 「成長概念」の見直し:数兆円の大企業になっても、いつまでも年率10%以上で成長を目指していると、必然的に無理が生じる。「成長=善」という常識の見直しが必要である。
② 「株主権利」の見直し:コーポレート・ガバナンスの中心概念である「株主権」が強過ぎることが、多くの問題を生じさせている。株主である年金から経営者へのプレッシャーが強過ぎるため、経営者が無理な成長や高株価を追及することが正当化されている。
③ 「経営者報酬」の見直し:自社の株価に連動させて経営者が数十億円の報酬を得ることが可能なため、経営者は過度なリスクを厭わなくなる。企業は公共財であり、一部の経営者による私物化を禁じる仕組みが必要である。
これらの問題の詳細は、拙著「投資銀行は本当に死んだのか」(日本経済新聞出版)に記されている。
大相撲の八百長と企業の不祥事払拭には、ともに尋常ならぬ決意が必要である。両者の共通点は、「土俵運営の透明化・正常化」「師弟関係の再構築」「コミュニケーション方法の見直し」が必要なことである。
ウォールストリート・ジャーナル2月14日コラムReprinted with permission of The Wall Street Journal, Japan. Copyright © 2010 Dow Jones & Company, Inc. All Rights Reserved Worldwide


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